適用事業報告は、1人目を雇った日に出す書類。期限は「遅滞なく」で、出し忘れても督促は来ません
適用事業報告は、最初の労働者を使いはじめたときに、事業場を管轄する労働基準監督署へ「遅滞なく」出す報告です(労働基準法施行規則57条1項1号)。会社を設立しただけ、社長1人だけのうちは出しません。週1日のアルバイトを1人雇った時点で必要になります。
1人目を雇ったときの届出のなかで、日数の期限も保険料の支払いもついていないのはこの書類だけです。出し忘れても督促は来ません。同じ監督署に10日以内に出す労働保険の保険関係成立届と、同じ日に出すのが確実です。様式は押印不要の現行版を使い、支店で人を使うなら支店の管轄監督署に別に出します。
適用事業報告とは何か
適用事業報告は、会社が労働基準法の適用を受ける事業になったことを、労働基準監督署に知らせる書類です。根拠は労働基準法施行規則57条1項1号で、条文はこうなっています。
使用者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、遅滞なく、第一号については様式第二十三号の二により、(中略)それぞれの事実を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。
一 事業を開始した場合
ここでいう「事業を開始した場合」は、会社を設立した日のことではありません。労働基準法は「労働者」を使う事業に適用される法律なので(労基法9条)、最初の労働者を使いはじめた時点で報告の義務が生まれます。高知労働局の案内も「適用事業となったとき(業種を問わず、労働者を使用するに至った場合)に、遅滞なく」と説明しています。
厚生労働省の様式一覧では、手続の根拠法令は「労働基準法第104条の2(労働基準法施行規則第57条)」と書かれています。104条の2は、行政官庁が使用者に必要な事項を報告させることができるという規定です。この報告をしなかった場合の罰則は30万円以下の罰金です(労基法120条5号「第百四条の二の規定による報告をせず」)。
出す会社・出さなくていい会社
判断は「労働者がいるかどうか」だけです。業種も人数も、労働時間の長さも関係ありません。雇用保険のような週20時間の線引きもないので、週1日のアルバイトを1人雇っただけでも対象になります。
| 会社の状態 | 必要か | 理由 |
|---|---|---|
| 社長1人だけの会社(役員報酬のみ) | 不要 | 役員は労働者ではない。労働者を使っていないので、まだ適用事業ではない |
| 役員だけで、従業員はいない | 不要 | 同上 |
| パート・アルバイトを1人雇った | 必要 | 雇用形態・時間数は問わない。この時点で事業開始 |
| 正社員を1人雇った | 必要 | 同上 |
| 使用人兼務役員(取締役営業部長など)がいる | 必要 | 部長としての労働部分は労働者として扱われる |
| 同居の親族だけを使っている(個人事業) | 不要 | 労基法116条2項で適用除外 |
| 同居の親族に加えて、他人を1人雇った | 必要 | 同居の親族以外の労働者を使う事業になる |
法人の場合、社会保険は社長1人でも加入義務がありますが、適用事業報告は社長1人のうちは出しません。「設立時の手続き一覧」に並んでいても、設立と同時に出す書類ではないということです。実際に出すのは、最初の従業員が入社したときです。
1人目を雇ったときの届出で、期限がいちばん曖昧です
最初の1人を雇うと、提出先の違う届出が一度に来ます。並べてみると、適用事業報告だけ性格が違うことが分かります。
| 届出 | 提出先 | 期限 | 保険料・税との連動 |
|---|---|---|---|
| 労働保険 保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 保険関係が成立した日の翌日から10日以内 | あり(労災保険料) |
| 労働保険 概算保険料申告書 | 労働基準監督署など | 保険関係が成立した日から50日以内 | あり(納付) |
| 雇用保険 適用事業所設置届 | ハローワーク | 設置の日の翌日から10日以内 | あり(雇用保険料) |
| 雇用保険 被保険者資格取得届 | ハローワーク | 雇い入れた月の翌月10日まで | あり |
| 健康保険・厚生年金 資格取得届 | 年金事務所 | 5日以内 | あり(社会保険料) |
| 適用事業報告 | 労働基準監督署 | 遅滞なく(日数の定めなし) | なし |
ほかの届出には、日数の期限と保険料の支払いがセットでついています。出し忘れれば、保険料の請求が来なかったり、従業員の保険証が届かなかったりして、どこかで気づきます。
適用事業報告にはどちらもありません。期限は「遅滞なく」で、お金の流れと結びついていない。出し忘れても、請求書も督促状も来ないということです。気づくのは、監督署と何かのやりとりが発生したとき――36協定届を初めて出すとき、就業規則を届け出るとき、労働災害が起きたとき、監督署の調査が入ったとき――になりがちです。
「遅滞なく」に日数の定めはありませんが、同じ労働基準監督署に10日以内に出す保険関係成立届があります。この2枚を同じ日に出すと決めてしまうのが、いちばん漏れない方法です。署内で受け付ける担当が分かれていることはありますが、行き先は同じ監督署です。
1人目を雇った日から、労働時間を客観的に記録する義務も始まります。タイムカードを買う前に、無料から始められるクラウド勤怠を見ておくと二度手間になりません。
様式の書き方(記入例つき)
様式は「様式第23号の2」です。厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーにWord形式で置かれています。A4で1枚、記入する欄は多くありません。
厚生労働省の様式一覧には「令和3年4月1日以降、使用者の押印および署名が不要」と注記されています。現在配布されている様式第23号の2には、押印欄がありません。
一方で、検索するといまも氏名欄に「印」が残った旧様式が見つかります(当サイトで確認したものは、ある労働局のサイトに掲載されている2008年作成のWordファイルでした)。旧様式で出して受理されないとは限りませんが、厚生労働省は現行様式での届出を求めています。ダウンロード元は厚生労働省のページにしてください。
以下は、正社員2人とパート1人を雇った会社を想定した記入例です(当サイト作成・架空の会社)。
| 欄 | 記入例 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 事業の種類 | 不動産業(賃貸住宅の仲介・管理) | 業種名を具体的に。「サービス業」のような大きすぎる書き方は避ける |
| 事業の名称 | 株式会社サンプル不動産 | 登記上の商号。支店分を出すなら「株式会社○○ 横浜支店」 |
| 事業の所在地(電話番号) | 東京都品川区○○1丁目2番3号 電話03(0000)0000番 | 本店所在地ではなく、労働者が働く事業場の所在地 |
| 労働者数:通勤・男 | 満18歳以上(1) 計(1) | 役員は数えない。使用人兼務役員は数える |
| 労働者数:通勤・女 | 満18歳以上(2) 計(2) | パート・アルバイトも含める |
| 労働者数:寄宿 | すべて(0) | 事業の附属寄宿舎に住む労働者がいなければ0 |
| 総計 | 満18歳以上(3) 計(3) | 報告日時点の人数 |
| 備考(適用年月日) | 2026年10月1日 | 最初の労働者を使いはじめた日。会社の設立日ではない |
| 使用者 職名・氏名 | 代表取締役 ○○○○ | 押印不要 |
| 宛先 | 品川労働基準監督署長 殿 | 事業場の所在地を管轄する監督署 |
労働者数の欄が「満18歳以上/満15歳以上満18歳未満/満15歳未満」に分かれているのは、年少者には別のルールがあるからです。満18歳未満の労働者には年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付ける義務があり(労基法57条)、原則として午後10時から午前5時までの深夜業もさせられません(労基法61条)。高校生のアルバイトを雇う会社は、この欄に数字が入ります。
様式の記載心得は2つだけです。「坑内労働者を使用する場合は、労働者数の欄にその数を括弧して内書すること」「備考の欄には適用年月日を記入すること」。一般の会社に関係するのは後者だけです。
出し方:窓口・郵送・電子申請
- 管轄の監督署を調べる本店ではなく、労働者が働く事業場の所在地で決まります。厚生労働省の「全国労働基準監督署の所在案内」で確認できます
- 様式を用意する厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーから様式第23号の2を取得。添付書類はありません
- 窓口に持参する高知労働局の案内では「1部(控が必要なときは2部)」。2部持っていけば、1部に受付印を押して返してもらえます
- 郵送する場合控えが欲しいなら、2部と切手を貼った返信用封筒を同封します
- 電子申請する場合厚生労働省は届出にe-Gov電子申請の利用を呼びかけています。来署も郵送も要らず、提出の記録がe-Govのマイページに残ります
控えは、あとで必要になることがあります。担当者が替わったときや、監督署から提出の有無を聞かれたときに、受付印のある控えか電子申請の記録があれば、出したかどうかで迷わずに済みます。紙で出すなら2部、が基本です。
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支店・営業所がある会社は、何枚出すのか
適用事業報告は「会社」ではなく「事業場」ごとに出します。労働基準法は事業場を単位に適用されるからです。事業場の数え方は、厚生労働省の通達に基準があります。昭和47年9月18日 発基第91号は、労働安全衛生法の事業場について「労働基準法における考え方と同一である」としたうえで、次のように書いています。
一の事業場であるか否かは主として場所的観念によつて決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とするものである。
(中略)場所的に分散しているものであつても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として取り扱うものとすること。
| 会社の形 | 事業場の数 | 適用事業報告 |
|---|---|---|
| 本店1か所だけ | 1 | 本店の所在地の監督署に1枚 |
| 同じビルの別フロアも使っている | 1 | 同一場所なので1枚 |
| 本店(東京)と、店長のいる支店(横浜) | 2 | 支店が初めて労働者を使うとき、横浜の管轄監督署に別に1枚 |
| 本店と、社員1人が常駐するだけの小さな出張所 | 原則1 | 独立性がなければ本店と一括。判断に迷うなら出張所の管轄監督署に確認 |
| 従業員が在宅勤務(テレワーク) | 1 | 社員の自宅ごとに報告するのではなく、所属する事業場の労働者として数える |
事業場の数え方は、適用事業報告だけの話ではありません。36協定も就業規則も、事業場ごとです。就業規則の作成義務がかかる「常時10人以上」も、会社全体ではなく事業場ごとに数えます。支店を出すときは、適用事業報告を出す段階で「この支店は別の事業場か」を決めておくと、あとの手続きがぶれません。
出し忘れていたとき・移転したとき
何年も出していなかった場合は、気づいた時点で出します。備考の適用年月日には、さかのぼって実際に最初の労働者を使いはじめた日を書きます。報告しなかったこと自体は罰則の対象になり得るので、長期間放置していた場合は、提出の際に経緯を窓口で説明するのが素直です。
事務所を移転した場合、労働基準法施行規則57条に「所在地を変更した場合」の報告は定められていません。様式第23号の2も「事業を開始した場合」の様式です。ただし、管轄の監督署が変わる移転では、移転先の監督署から適用事業報告の提出を求められることがあります。移転先の監督署にとっては、初めて把握する事業場だからです。扱いは監督署に確認してください。労働保険の「名称、所在地等変更届」(変更の翌日から10日以内)を出すときに、あわせて確認してください。
従業員がいなくなった場合、適用事業報告に「廃止」の様式はありません。労働保険のほうは、保険関係が消滅するので確定保険料の申告・精算が必要です。
- 社長1人の会社…まだ出さない。最初の従業員を雇った日に「適用年月日」が決まる
- 1人目を雇った…保険関係成立届と同じ日に、同じ監督署へ出す
- 支店を出して、そこで人を使う…支店の所在地の監督署に、支店分を1枚
- 管轄をまたいで移転した…労働保険の変更届とあわせて、移転先の監督署に要否を確認
- 控え…紙なら2部提出で受付印をもらう。電子申請なら記録が残る
よくある質問
Q社長1人の会社でも、設立したら適用事業報告を出すのですか
出しません。役員は労働基準法上の労働者ではないため、社長や役員だけの会社はまだ労働基準法の適用事業ではありません。最初の従業員(パート・アルバイトを含む)を雇った時点で、遅滞なく提出します。なお社会保険は、法人であれば社長1人でも加入義務があるので、そちらとは扱いが違います。
Q週1日・1日3時間のアルバイトを1人雇っただけでも必要ですか
必要です。適用事業報告には、雇用保険の週20時間のような労働時間の要件がありません。労働者を1人でも使えば労働基準法の適用事業になり、報告の対象になります。同じく労災保険も時間数にかかわらず加入が必要です。
Q提出期限は何日以内ですか
条文上は「遅滞なく」で、日数の定めはありません。同じ労働基準監督署に、保険関係が成立した日の翌日から10日以内に出す労働保険の保険関係成立届があるので、同じ日に提出するのが実務的です。
Q適用事業報告を出していないと、どうなりますか
労働基準法104条の2に基づく報告をしなかったことになり、罰則は30万円以下の罰金です(労働基準法120条5号)。保険料と連動しないため督促は来ず、監督署の調査や労働災害の発生などをきっかけに未提出が分かることが多い書類です。気づいた時点で、実際の適用年月日を書いて提出してください。
Q電子申請で出せますか。控えはどうなりますか
厚生労働省は、労働基準法等の届出にe-Gov電子申請の利用を呼びかけています。電子申請なら提出の記録がマイページに残ります。窓口や郵送で出す場合は2部用意すれば、1部に受付印を押して返してもらえます(郵送なら返信用封筒を同封)。
まとめ
- 適用事業報告は、最初の労働者を使いはじめたときに出す(労基則57条1項1号・様式第23号の2)。会社の設立日ではない
- 社長・役員だけの会社は不要。週1日のアルバイト1人でも必要。同居の親族だけの事業は不要
- 期限は「遅滞なく」。保険料と連動しないので督促は来ない。保険関係成立届と同じ日に出すと漏れない
- 現行様式は押印不要(令和3年4月以降)。印欄の残る旧様式ではなく、厚生労働省の様式を使う
- 事業場ごとに出す。場所が離れた支店は原則別の事業場、独立性のない小さな出張所は本店と一括
- 未提出の罰則は30万円以下の罰金(労基法120条5号)。控えは2部提出か電子申請の記録で残す
この記事は2026年9月15日時点の法令・公開情報に基づいています。制度は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。