労災保険の加入義務。1人でも雇えば加入で、未加入の代償は重い
労災保険は労働者を1人でも雇えば加入義務があります。パート・アルバイト・日雇いも、雇用形態や労働時間に関係なく対象です。社会保険や雇用保険のような時間要件はありません。保険料は全額事業主負担で、従業員から徴収するものではありません。
そして未加入の代償が重いのがこの保険です。手続きを怠っていた期間に労災が起きて給付が行われた場合、最大2年間遡った保険料と追徴金10%に加えて、給付額の40%または100%が費用徴収されます。労働局から指導を受けていたのに手続きしなかった場合は「故意」と認定され100%、適用事業となってから1年を経過してなお手続きしていない場合は「重大な過失」で40%です。
加入義務の範囲
- 労働者を1人でも雇えば適用事業…法人でも個人事業でも、業種を問わず(農林水産業の一部を除く)加入義務があります。1日だけのアルバイトでも「労働者」です
- 時間要件がない…雇用保険は週20時間以上、社会保険は週20時間以上という要件がありますが、労災保険にはありません。週2時間のアルバイトでも対象です
- 従業員から保険料を取らない…全額事業主負担です。給与から労災保険料を控除している場合は誤りです
- 雇用保険とセットで「労働保険」…成立手続きは労働保険(労災+雇用)としてまとめて行います。労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークが窓口です
- 通勤中の事故も対象…業務災害と通勤災害の両方をカバーします。通勤経路の逸脱・中断があると対象外になる場合があります
保険料と手続き
- 保険関係成立届を提出する…労働者を雇った日の翌日から10日以内に、所轄の労働基準監督署へ提出します。これが「成立手続き」です
- 概算保険料申告書を提出する…保険関係が成立した日から50日以内に、その年度分の概算保険料を申告・納付します
- 毎年6月1日〜7月10日に年度更新…前年度の確定保険料の精算と、当年度の概算保険料の申告を同時に行います。当社もこの時期に処理しています
- 保険料率は業種で決まる…事業の種類ごとに料率が定められており、事務職中心の業種は低く、建設業や運送業は高くなります
未加入の代償
| 区分 | 認定される場面 | 徴収額 |
|---|---|---|
| 故意 | 労働局の職員から成立手続きを行うよう指導を受けていたにもかかわらず手続きをしなかった | 給付額の100% |
| 重大な過失 | 適用事業となった時から1年を経過してなお手続きを行わない | 給付額の40% |
| 共通 | — | 最大2年間遡った保険料+追徴金10% |
- 従業員への給付自体は行われる…未加入でも労災の認定と給付は行われます。守られるのは労働者で、費用を負担するのは事業主という構造です
- 金額が読めない…療養補償や休業補償だけなら数十万円でも、障害や死亡に至れば給付額は数千万円規模になります。その100%を請求される可能性があるということです
- 「指導を受けたかどうか」が分岐点…一度でも労働局から指導を受けていれば故意と認定されます。指導が来た時点で最優先で手続きするのが唯一の防御です
- 労災を隠すとさらに重い…労働者死傷病報告を提出しない、または虚偽の報告をすると「労災隠し」として労働安全衛生法違反になります。50万円以下の罰金の対象で、悪質な場合は書類送検されます
役員・家族・一人親方の扱い
- 役員は原則対象外…労働者ではないため労災保険は適用されません。ただし部長などを兼務する使用人兼務役員は、労働者としての部分について適用されます
- 同居の親族も原則対象外…事業主と同居の親族は原則として労働者に当たりません。ただし就業実態や賃金の支払い方が他の労働者と同様であれば、労働者として扱われます
- 役員には特別加入という選択肢…中小事業主等が労災保険に加入する「特別加入(労災保険の特別加入制度)」があります。労働保険事務組合に事務委託することが条件です
- 一人親方は特別加入…建設業などで労働者を雇わずに事業を行う場合、一人親方等の特別加入団体を通じて加入します。元請から加入を求められることが多い制度です
- 外注と雇用の線引きが問われる…業務委託契約でも、指揮命令を受けて働いていれば労働者と判断されることがあります。労災が起きたときに「労働者だった」と認定されると未加入の問題になります
当社は宅地建物取引業なので現場作業のリスクは限られますが、それでも物件の内見中の事故や通勤災害はあり得ます。労災保険は「使わないつもりの保険」ですが、未加入のリスクだけが極端に大きい制度なので、成立手続きと年度更新だけは必ず期限内に処理しています。
よくある質問
Q週2時間のアルバイトでも労災保険は必要ですか
必要です。労災保険には雇用保険や社会保険のような労働時間の要件がありません。労働者を1人でも雇えば加入義務が生じます。
Q労災保険料を従業員から控除してよいですか
できません。労災保険料は全額事業主負担です。雇用保険料は労使で負担しますが、労災保険は事業主だけが負担します。
Q未加入のまま事故が起きたらどうなりますか
従業員への給付は行われますが、事業主に対して最大2年分の保険料と追徴金10%、さらに給付額の40%または100%が費用徴収されます。指導を受けていた場合は100%です。
Q代表取締役が業務中にけがをしたら労災は使えますか
原則として使えません。役員は労働者ではないためです。中小事業主等の特別加入制度を利用していれば対象になります。労働保険事務組合への事務委託が条件です。
まとめ
① 労働者を1人でも雇えば加入義務。パート・アルバイト・日雇いも対象で、時間要件はない。
② 保険料は全額事業主負担。従業員から控除してはいけない。
③ 手続きは保険関係成立届(10日以内)+概算保険料申告(50日以内)、毎年6月〜7月10日に年度更新。
④ 未加入で労災が起きると最大2年分の保険料+追徴金10%+給付額の40%または100%。
⑤ 指導を受けていたら「故意」で100%、1年経過なお未手続なら「重大な過失」で40%。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。