就業規則。10人の数え方と、「周知しないと効力なし」
就業規則は、労働時間・賃金・服務など職場のルールを定めた文書で、常時10人以上の労働者を使用する事業場には作成と労働基準監督署への届出が義務です(労基法89条)。ポイントは数え方で、10人にはパート・アルバイトも含み、会社全体でなく事業場(オフィス・店舗)単位で数えます。
そして意外と知られていない急所が周知義務。作って届け出ても、労働者がいつでも見られる状態にしていない就業規則は効力を持ちません。金庫にしまった就業規則で懲戒処分はできない——「作る・届け出る・周知する」の3点セットで初めて機能する、という構造から整理します。
義務のライン:10人の数え方
| 論点 | ルール |
|---|---|
| 人数のカウント | 正社員+パート+アルバイト=常時使用する労働者で10人以上(派遣は派遣元でカウント)。繁忙期だけ10人を超える場合は「常時」でなければ義務なし |
| 単位 | 会社全体でなく事業場単位。本店6人+支店5人なら、各事業場は義務なし(合算しない) |
| 手続き | 作成→過半数代表の意見書を添付→労基署へ届出→労働者への周知 |
| 変更時 | 同じ手続き(意見書+届出+周知)を毎回 |
記載事項と「意見書」の正体
- 絶対的必要記載事項は3分野…①労働時間関係(始業終業・休憩・休日・休暇)②賃金関係(決定・計算・支払方法・締切・支払時期・昇給)③退職関係(解雇事由を含む)。この3つが抜けた就業規則は不備です
- 相対的必要記載事項は「定めるなら書く」…退職手当・賞与・懲戒・安全衛生など、制度として持つなら記載が必要です。特に懲戒処分は、就業規則に定めがなければ原則できません——服務規律と懲戒の条文が就業規則の実戦的な価値です
- 意見書は「同意書」ではない…過半数代表から意見を聴いた証明であり、反対意見が付いていても届出はできます。ただし36協定と同じく、代表の選出は民主的な方法が必須です
- 周知の方法…掲示・備え付け・データでの共有(社内サーバー・チャットツール)のいずれかで、「いつでも見られる」状態にします。入社時に配って終わり、ではなく常時アクセスできることが要件です
作り方の現実解
- 厚労省のモデル就業規則から始める…無料で条文が揃った公式の雛形です。ただしモデル規則は労働者に手厚めの標準設定なので、丸写しでなく自社の実態(手当・休職・副業の扱い)に合わせて削る・直すのが前提です
- 実態と合わない条文を残さない…「書いてあるのにやっていない」制度(皆勤手当・慶弔休暇など)は、労働者から請求されたら払う義務の根拠になります。作るときに実態との突き合わせを
- 賃金規程・育児介護規程は別冊でもよい…本則+別規程の構成が管理しやすく、変更時の届出も規程単位でできます
- 仕上げの整合チェックは社労士へ…雇用契約書・労働条件通知書との矛盾(契約書が規則を下回ると無効)や、直近の法改正への追従は専門家のレビューが確実です。スポット依頼なら数万円台からが相場です
10人未満でも作る価値
- 懲戒・服務のルールが持てる…問題行動への対応(注意・減給・解雇)は、根拠となる定めがあって初めて有効に機能します。人数が少ないほど1人のトラブルの影響が大きい、という意味では小さい会社ほど効きます
- 採用の信頼材料になる…休暇・手当・評価のルールが明文化されている会社は、求職者から見て安心です
- 助成金の要件になることがある…雇用関係の助成金には就業規則(または労働協約)の整備を要件とするものがあり、10人未満でも作っておくと申請の選択肢が広がります
- 義務がなくても届出はできる…10人未満の任意作成でも労基署への届出は受理されます。周知して運用すれば効力の考え方は同じです
よくある質問
Qパートだけで10人の店舗も就業規則が必要ですか
必要です。常時使用する労働者にはパート・アルバイトが含まれます。パート向けの労働条件が本則と大きく異なるなら、パートタイマー就業規則を別に作る構成が実務的です。
Q就業規則がないまま10人以上雇っていました
気づいた時点で作成・届出してください。義務違反の状態が続くほか、懲戒などのルールが機能しない実害のほうが大きいので、モデル就業規則ベースで早急に整備するのが現実解です。
Q従業員代表が反対したら届出できませんか
できます。必要なのは意見を聴いた証明(意見書)で、同意ではありません。ただし反対意見の内容が合理的なら、施行前に調整するほうが運用は安定します。
Q就業規則より良い条件を個別契約で約束できますか
できます。無効になるのは就業規則を下回る個別契約です(その部分だけ規則の水準まで引き上げ)。上回る条件は個別契約が優先します。
まとめ
① 常時10人以上(パート含む・事業場単位)で作成+届出が義務。数え方が最初の急所。
② 手続きは意見書(同意は不要)+届出+周知の3点セット。周知なき就業規則は効力なし。
③ 絶対的記載は労働時間・賃金・退職。懲戒は定めがなければ原則できない。
④ モデル就業規則を実態に合わせて調整し、契約書との整合は社労士レビューが確実。10人未満でも作る価値あり。
この記事は2026年7月27日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。