10月に時給を上げるなら、労働条件通知書の労働時間も一緒に直してください
2026年10月1日に最低賃金が改定されます。東京は1,226円から1,280円、全国加重平均は1,176円の見込みです。ここで見落とされているのが、健康保険の扶養の判定方法が2025年10月から「労働条件通知書に書いた時給・労働時間・日数」で行われる扱いに変わっていることです。
つまり時給だけを書き換えて労働時間をそのままにすると、紙の上の年収見込みだけが上がります。東京の場合、扶養内で働ける時間は年1,060時間から1,015時間へ、1人あたり年45時間減ります。時給別の早見表と、やってはいけない直し方を厚生労働省のQ&Aから整理しました。
10月1日に、時給が上がります
2026年7月28日、中央最低賃金審議会が令和8年度の引上げ額の目安を答申しました。Aランク54円、Bランク56円、Cランク56円です。目安どおりに各県で改定されれば、全国加重平均は1,176円、引上げ額55円、引上げ率4.9%になります。
これを受けて各地方最低賃金審議会が答申を出しており、東京は現行1,226円から54円上がって1,280円、10月1日の発効予定です。最終的な額と発効日は各都道府県労働局長が決定します。ご自身の県の額は厚生労働省の発表で確認してください。
ここまでは、どこにでも書いてある話です。問題はこの先です。
扶養の判定が「通知書に書いた内容」に変わっています
健康保険の扶養に入れるかどうかは、長らく過去の収入や、今後1年間の収入見込みで判定されてきました。ところが2025年10月1日以降、これが変わっています。
厚生労働省の通知(令和7年10月1日付 保保発1001第3号・年管管発1001第3号)と、そのQ&A第2版(令和8年3月9日付)にはっきり書かれています。Q2の答えがこうです。
労働条件通知書等の労働契約の内容が確認できる書類において規定される時給・労働時間・日数等を用いて算出した年間収入の見込額が130万円未満である場合を想定しています。
つまり労働条件通知書に書いた時給と労働時間が、そのまま扶養の判定材料になります。通知書の数字を掛け算して130万円以上になれば、扶養から外れる方向に働くということです。この取扱いにした理由も同じQ&Aに書かれていて、就業調整対策の観点から、判定の予見可能性を高めるため、とされています。
ここで10月の話に戻ります。最低賃金が上がれば、通知書の時給を書き換えます。そのとき労働時間をそのままにしておくと、掛け算の答えだけが上がります。去年と同じシフトのつもりでも、紙の上では年収見込みが増えている、という状態になります。
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時給別・扶養内に収まる労働時間の早見表
では何時間までなら収まるのか。年130万円を時給で割っただけの表です。自社の時給に近い行を見てください。
| 時給 | 年間 | 月あたり | 週あたり |
|---|---|---|---|
| 1,050円 | 1,238時間 | 103.2時間 | 23.8時間 |
| 1,100円 | 1,181時間 | 98.4時間 | 22.7時間 |
| 1,150円 | 1,130時間 | 94.2時間 | 21.7時間 |
| 1,200円 | 1,083時間 | 90.2時間 | 20.8時間 |
| 1,226円(改定前の東京) | 1,060時間 | 88.3時間 | 20.4時間 |
| 1,250円 | 1,039時間 | 86.6時間 | 20.0時間 |
| 1,280円(改定後の東京) | 1,015時間 | 84.6時間 | 19.5時間 |
| 1,300円 | 999時間 | 83.2時間 | 19.2時間 |
東京の行を2つ並べて見てください。1,226円のときは年1,060時間まで働けました。1,280円になると1,015時間です。同じ扶養の枠の中で働ける時間が、1人あたり年45時間、月にして約3.8時間減ります。パートさんが5人いれば、年225時間分のシフトが消える計算です。時給が上がったぶん本人の手取りは増えますが、会社側から見ると、同じ人数で埋められる時間が減るということです。
基準額は全員一律ではありません。次の3つがあります。
| 対象 | 基準額 |
|---|---|
| 原則 | 130万円未満 |
| 19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く) | 150万円未満 |
| 60歳以上・障害者 | 180万円未満 |
学生アルバイトを雇っている会社は、150万円のほうで計算してください。時給1,280円なら年1,171時間、週22.5時間までが目安になります。
やってはいけない直し方が2つあります
- 時間を低く書いて、残業で埋めるのはだめですQ&AのQ8にはっきり書かれています。臨時収入を前提として通知書に賃金や労働時間を不当に低く記載していたことが判明した場合は、扶養の認定を取り消して差し支えない、という扱いです。紙の上だけ整えるやり方は塞がれています。
- 「シフト制による」と書いてあるだけの通知書は、そもそもこの方式で判定できませんQ2-2に、労働時間の記載が不明確な場合や契約期間が1年に満たない場合は判定できないため、従来どおり給与明細書や課税証明書で判定する、とあります。予見可能性という利点を受けたいなら、時間と日数を書く必要があります。
逆に、契約に明確な規定がない時間外労働の賃金は「臨時収入」として年収見込みに含めません(Q1)。繁忙期にやむを得ず出た残業で、社会通念上妥当な範囲であれば、それを理由に扶養を外す必要はないとされています(Q8)。ここは会社にとって現実的な救いになっています。
もう1点。認定は入ったら終わりではありません。Q7に、2年目以降は少なくとも年1回、保険者が確認を行うとあり、その時点の最新の通知書等の提出を求めるとされています。10月に時給を書き換えた通知書が、次の確認でそのまま材料になります。
どうせ10月に通知書を作り直すなら、3つ同時に
実は2026年10月1日には、パート・有期の労働条件通知書についてもう1つ変更があります。待遇差の説明を求めることができる旨の明示が義務になり、違反は10万円以下の過料です。同じ日です。
ばらばらに直すと3回作り直すことになります。9月中に1回で済ませてください。
- 時給を新しい最低賃金以上に直す自県の答申額を確認します。発効日は10月1日とは限らないので、そこも合わせて確認してください。
- 所定労働時間と日数を、上の早見表の範囲に収める扶養内で続けてもらう前提なら、ここを直さないと時給だけが上がった通知書になります。本人と話して決めてください。
- 「説明を求めることができる旨」の1行を足す10月1日以降の雇い入れと契約更新から義務になります。文例は別記事にあります。
通知書そのものの書き方は労働条件通知書の基本に、扶養の壁の全体像は年収の壁のほうにまとめてあります。
よくある質問
Q従業員が10人以下の会社にも関係がありますか
関係します。社会保険の適用拡大(106万円の壁)は従業員51人以上の会社の話ですが、この記事の130万円は配偶者や親の扶養に入れるかどうかの基準で、会社の規模を問いません。パートを1人でも雇っていれば対象です。
Q扶養の判定は本人と保険者の話で、会社は関係ないのでは
判定に使われるのが労働条件通知書なので、会社が書いた数字がそのまま材料になります。厚生労働省のQ&Aでは、2年目以降は少なくとも年1回、保険者がその時点の最新の通知書等の提出を求めて確認するとされています。会社が発行する書類の内容が、本人の扶養の可否を左右します。
Q繁忙期に残業してもらったら、扶養から外れてしまいますか
労働契約に明確な規定がなく契約段階では見込めなかった時間外労働の賃金は「臨時収入」とされ、年間収入の見込額に含めません。結果的に130万円以上になっても、社会通念上妥当な範囲であれば、それを理由に認定を取り消す必要はないとされています。ただし、はじめから残業を前提に通知書の時間を低く書いていた場合は取り消され得ます。
Q「シフト制による」としか書いていない通知書はどうなりますか
労働時間の記載が不明確な場合は労働契約による判定ができないため、従来どおり給与明細書や課税証明書で判定されます。予見可能性という新しい扱いの利点を受けたいのであれば、時間と日数を具体的に書く必要があります。
Q学生アルバイトも130万円で計算するのですか
19歳以上23歳未満(被保険者の配偶者を除く)は150万円未満が基準です。時給1,280円なら年1,171時間、週22.5時間程度までが目安になります。60歳以上と障害者の方は180万円未満です。
まとめ
- 2026年10月1日に最低賃金が改定(東京1,280円・全国加重平均1,176円・引上げ率4.9%)
- 健康保険の扶養は2025年10月から、労働条件通知書の時給・労働時間・日数で判定する扱いになっている
- 時給だけ書き換えると紙の上の年収見込みが上がる。東京では扶養内で働ける時間が年45時間減る
- 時間を低く書いて残業で埋めるのは不可。「シフト制による」だけの記載は新方式の対象外
- 同じ10月1日にパート・有期の明示事項も1つ増える。9月中に通知書を1回で直す
この記事は2026年8月11日時点の法令・公開情報に基づいています。制度は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。