労働基準監督署の調査。定期監督と申告監督では意味が違います
労働基準監督署の調査(臨検監督)には種類があります。定期監督=年度計画に基づく調査。申告監督=労働者からの申告を端緒とする調査。災害時監督=労災事故を契機とするもの。再監督=是正状況の確認。
どれであっても、まず求められるのは労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(3点セット)です。これらは労働基準法で調製・保存が義務づけられている帳簿で、存在しないこと自体が違反になります。指摘されやすい項目と、是正報告までの流れを整理します。
調査の種類
| 種類 | 端緒 | 特徴 |
|---|---|---|
| 定期監督 | 監督署の年度計画 | 業種や地域を絞って実施。予告あり・なしの両方 |
| 申告監督 | 労働者からの申告 | 未払残業代、解雇など論点が特定されている |
| 災害時監督 | 労働災害の発生 | 事故の原因と安全衛生管理体制を確認 |
| 再監督 | 前回の是正勧告 | 指摘事項が改善されたかを確認 |
- 申告監督では申告者を明かさない…誰が申告したかは伝えられません。申告を理由に不利益取扱いをすることは禁止されています(労働基準法104条2項)
- 予告なしで来ることもある…事前に日時の連絡がある場合と、突然訪れる場合があります。担当者が不在でも、可能な範囲で対応します
- 労働基準監督官は司法警察職員…重大・悪質な事案では逮捕・送検の権限があります。ただし通常の調査は行政指導が目的です
- 日時の変更は相談できる…どうしても対応できない日であれば、理由を説明して調整を依頼します。無視や拒否は避けます
- 調査は事業場ごと…本社に来ても、指摘は各事業場の実態に基づいて行われます
当日そろえる書類
| 書類 | 保存期間 |
|---|---|
| 労働者名簿 | 5年(当分の間3年) |
| 賃金台帳 | 5年(当分の間3年) |
| 出勤簿・タイムカード | 5年(当分の間3年) |
| 就業規則 | 常時10人以上の事業場は作成・届出が義務 |
| 36協定などの労使協定 | 有効期間中および終了後5年(当分の間3年) |
| 雇用契約書・労働条件通知書 | 労働条件の明示を証する書類 |
| 健康診断個人票 | 5年 |
- 三帳簿は「ある」だけでは足りない…労働者名簿には氏名、生年月日、履歴、従事する業務の種類などの記載事項が定められています。記載漏れがあれば指摘されます
- 賃金台帳の記載事項…労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、基本給、手当の種類と額などが必要です。給与明細と同じ内容では足りないことがあります
- 出勤簿は客観的な記録が原則…タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など、客観的な方法での把握が求められます(労働安全衛生法66条の8の3)
- 提示を求められたら原本を出す…隠したり改ざんしたりすることは絶対に避けます。虚偽の陳述は罰則の対象です
- その場で出せないものは期限を確認する…後日提出でよい場合もあります。いつまでに何を出すかをメモします
指摘されやすい項目
- 36協定の未締結・未届出…時間外労働をさせているのに協定がない、有効期間が切れているという指摘は非常に多いものです。毎年の更新を忘れやすい手続きです
- 労働時間の把握方法…自己申告制のみで客観的な記録がない場合、指摘されます
- 割増賃金の不払い…固定残業代の設定が不適切、深夜割増の計上漏れ、算定基礎に含めるべき手当の除外などが典型です
- 就業規則の未整備…常時10人以上の事業場で作成・届出をしていない、変更しても届け出ていないケースです
- 労働条件の明示不足…2024年4月から就業場所・業務の変更の範囲などが明示事項に追加されました。書式が古いままだと指摘されます
- 健康診断の未実施…雇入時と年1回の定期健康診断は、人数にかかわらず義務です
- 年次有給休暇の年5日取得…10日以上付与される労働者に年5日取得させる義務があります。時季指定を行った記録(年次有給休暇管理簿)も確認されます
是正勧告への対応
- 是正勧告書と指導票を区別する…是正勧告書は法違反に対するもの、指導票は法違反ではないが改善が望ましい事項についてのものです
- 期日までに是正する…勧告書には是正期日が記載されています。間に合わない場合は事前に相談します
- 是正報告書を提出する…何をどう改善したかを記載し、証拠となる書類(改訂した就業規則、支払った賃金の明細など)を添付します
- 未払賃金があれば支払う…遡って計算し、対象者に支払います。金額が大きくなることがあるため、早期の把握が重要です
- 是正勧告に法的な強制力はない…行政指導です。ただし従わなければ再監督や司法処分に進む可能性があります
- 放置が最も危険…是正報告をしないまま放置すると、悪質と判断されます
- 社労士に相談する…未払賃金の計算や就業規則の改訂は専門的です。是正期日までの時間が限られるため、早めに依頼します
- 当社の考え方…3名の会社でも三帳簿と36協定は同じ義務です。調査が来てから慌てるのではなく、年に一度は帳簿の記載事項を確認するという運用にしています
労働基準監督署の調査は「悪いことをしたから来る」ものばかりではありません。定期監督は業種を絞って計画的に行われます。三帳簿の記載事項、36協定の有効期間、年5日の有給取得。この3つを確認しておけば、指摘の大半は防げます。
よくある質問
Q労働基準監督署の調査は断れますか
労働基準監督官には臨検の権限があり、拒否や妨害は罰則の対象です。日程の調整は相談できますが、調査そのものを拒むことはできません。
Q申告監督では誰が申告したか分かりますか
分かりません。申告者は明かされず、申告を理由に不利益な取扱いをすることは労働基準法で禁止されています。
Q是正勧告に従わないとどうなりますか
是正勧告自体は行政指導ですが、従わなければ再監督が行われ、悪質な場合は司法処分(送検)に進む可能性があります。
Q従業員が3人でも調査の対象ですか
対象です。労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の作成保存義務、36協定、健康診断の実施義務はいずれも人数にかかわらず生じます。
まとめ
① 調査は定期監督・申告監督・災害時監督・再監督の4種類。
② まず求められるのは労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の三帳簿。記載事項の漏れも指摘対象。
③ 指摘が多いのは36協定の未届出・労働時間の把握方法・割増賃金の不払い・年5日の有給取得。
④ 是正勧告書=法違反、指導票=改善が望ましい事項。
⑤ 是正期日までに改善し、是正報告書を提出する。放置が最も危険。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。