労働保険の年度更新。「概算で前払い、翌年精算」が分かれば全部つながります
労働保険の年度更新は、毎年6月1日〜7月10日に行う労災保険・雇用保険の申告・納付手続きです。書類が分かりにくいと言われますが、構造は一つだけ。「新年度の保険料を概算で前払いし、翌年、実際に払った賃金総額で精算する」——確定保険料(昨年の答え合わせ)と概算保険料(今年の前払い)を1枚の申告書で同時にやっている、と分かれば全部つながります。
2026年度は雇用保険料率が一般の事業で1.35%に引き下げられました(厚生労働省)。7月10日の期限は過ぎた時期ですが、仕組みを理解しておけば来年6月の自分を助けます。出し忘れた場合の対応も最後に書きました。
仕組み:1枚の申告書で「精算」と「前払い」
| 確定保険料 | 概算保険料 | |
|---|---|---|
| 意味 | 前年度の答え合わせ。実際の賃金総額×料率で計算し、前払い済みの概算と差額精算 | 新年度の前払い。原則、前年度と同じ賃金総額見込みで計算 |
| 使う賃金 | 前年4月1日〜3月31日に支払った賃金総額 | 新年度の見込み賃金総額 |
| 料率(2026年度) | 雇用保険:一般の事業 1.35%(引き下げ)/労災保険:業種別(全額事業主負担)+石綿の一般拠出金 | |
| 納付 | 差額と前払いを合算して7月10日までに納付。概算保険料40万円以上なら3回分割(延納)可 | |
賃金集計でつまずくポイント
- 賞与も通勤手当も入る…集計するのは「労働の対償として支払った賃金の総額」。基本給だけでなく賞与・通勤手当・残業代も入ります。算定基礎届と同じ発想ですが、こちらは年間総額です
- 役員報酬は原則入らない…労働保険は「労働者」の保険なので、役員報酬は原則対象外。ここが算定基礎届(役員も対象)との一番の違いで、混同すると保険料を余計に払います。兼務役員の労働者部分だけは対象になります
- 雇用保険と労災で対象者が違う…労災は全労働者(アルバイト1日でも対象)、雇用保険は加入要件を満たす人だけ。集計表が2列に分かれているのはこのためで、短時間アルバイトが多い会社ほど2列の差が出ます
- 年度途中の退職者も含む…集計期間は「支払った賃金」ベース。年度の途中で辞めた人に払った分も確定保険料の計算に入ります
年度更新の賃金集計は、給与ソフトに1年分のデータが入っていれば集計表がほぼ自動で出ます。6月に慌てない仕組みを先に作るのが正解です。
納付の実務
- 申告書は5月末〜6月に届く…労働局から送られてくる申告書に、前年の概算納付額が印字されています。給与ソフトの集計表から賃金総額を転記し、差額を計算する流れです
- 概算保険料40万円以上は3回に分割できる…延納を選ぶと7月・10月・1月の3回払いになります(労災・雇用の一方のみ成立の場合は20万円以上)。資金繰り上は分割一択に見えますが、金額が小さい会社は事務の手間と相談です
- 電子申請が標準になりつつある…e-Govからの電子申請なら窓口も郵送も不要。算定基礎届と期限が同じ7月10日なので、実務では「6月に賃金集計→社保と労保を同じ週に電子申請」とセットで段取りするのが定石です
- 忘れたら追徴のリスク…申告しないと政府が保険料を決定し、さらに10%の追徴金が課され得ます。期限を過ぎても、気づいた時点で申告するのが最小ダメージです
よくある混同の整理
- 算定基礎届とは別の手続き…同じ7月10日期限ですが、算定基礎届=社会保険(健保・厚生年金/年金機構へ)、年度更新=労働保険(労災・雇用/労働局へ)。対象も計算期間も違う2本立てです
- 雇用保険料率は毎年4月に変わり得る…2026年度は引き下げでしたが、料率は毎年見直されます。給与天引きの従業員負担分も連動して変わるので、4月の給与計算前に厚労省の新料率を確認するのが年次ルーティンです
- 労災保険率は業種で大きく違う…事務中心の業種と建設業では料率が桁違いです。事業内容が変わったのに古い業種分類のまま、という会社は保険料を払いすぎ(or不足)している可能性があります
- 1人でも雇ったら労働保険は成立手続きから…年度更新は「すでに労働保険に加入している会社」の話。初めて人を雇った場合は、保険関係成立届から始まります。給与計算の記事で書いた雇用時の段取りとセットで押さえてください
よくある質問
Q役員だけの会社(従業員ゼロ)でも年度更新は必要ですか
労働者がいなければ労働保険の適用自体がないので、年度更新もありません。従業員を雇った時点で保険関係が成立し、翌年から年度更新が始まります。
Q賃金総額が前年からほぼ変わらない場合、概算はどう書きますか
原則として前年度の確定賃金総額をそのまま新年度の見込みとして使います。大幅な増減(2倍超・半分未満)が見込まれる場合だけ、見込み額で計算します。
Q延納を選んだ2回目・3回目の納付を忘れそうです
口座振替を申し込んでおくと自動引き落としになります。納付書払いのままなら、10月末・1月末の期日をカレンダー登録しておくのが確実です。
Qパート・アルバイトの分も保険料がかかりますか
労災保険分は全員分かかります(1日だけのアルバイトでも対象)。雇用保険分は、週20時間以上など加入要件を満たして被保険者になっている人の賃金だけが対象です。
まとめ
① 年度更新=確定保険料(前年の精算)と概算保険料(新年度の前払い)を1枚で申告。期限は6/1〜7/10。
② 2026年度の雇用保険料率は一般の事業1.35%に引き下げ。労災は業種別・全額事業主負担。
③ 賃金集計は賞与・通勤手当込み、役員報酬は原則対象外(算定基礎届との最大の違い)。
④ 概算40万円以上は3回延納可。忘れると認定決定+追徴10%。気づいたら即申告。
この記事は2026年7月27日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。