月額変更届(随時改定)。昇給しても改定は4か月目からです
昇給しても、社会保険料はすぐには変わりません。随時改定(月額変更届)は3つの要件をすべて満たしたときだけ必要で、改定されるのは変動後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からです。4月に昇給して4月分の給与が上がったなら、7月から新しい保険料になります。
3要件は①固定的賃金の変動があること ②変動月以後引き続く3か月の平均から算出した標準報酬月額が従前と2等級以上の差になること ③その3か月とも支払基礎日数が17日以上あること。ここで効くのが①です。残業代が増えただけでは随時改定に該当しません。この一点を押さえるだけで、判断の9割が終わります。
3つの要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 固定的賃金の変動 | 昇給(ベースアップ)・降給(ベースダウン)、給与体系の変更(日給から月給への変更等)、日給や時間給の基礎単価の変更など |
| ② 2等級以上の差 | 変動月以後引き続く3か月の報酬の平均額から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に2等級以上の差 |
| ③ 支払基礎日数 | 3か月とも支払基礎日数が17日以上 |
- 3つすべて必要…どれか1つでも欠けたら随時改定には該当しません。昇給しても2等級動かなければ届出は不要で、次の算定基礎届(7月)まで保険料は変わりません
- 改定は4か月目から…日本年金機構の説明では「変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4カ月目の標準報酬月額から改定」。4月支給分から上がったなら7月改定です
- 支払基礎日数は数え方が違う…月給制・週給制は暦日数、日給制・時給制は出勤日数で数えます。月給者で欠勤控除がある場合は、就業規則等で定めた所定労働日数から欠勤日数を差し引きます
- 上がるときも下がるときも届出…降給で2等級下がった場合も随時改定です。保険料が下がるので、出し忘れると従業員が損をします
固定的賃金の変動とは何か
- 該当するもの…基本給の昇給・降給、役職手当や住宅手当など固定的な手当の新設・廃止・支給額変更、給与体系の変更(日給→月給など)、時間給や日給の単価変更、パートの所定労働時間の変更
- 該当しないもの…残業代の増減、賞与、精皆勤手当の変動、業績連動の歩合部分の増減など、稼働に応じて変わる部分だけの変動です。繁忙期に残業が増えて報酬が2等級上がっても随時改定にはなりません
- 固定的賃金が上がったのに総額が下がった場合…固定給が上がったが残業代が減って総額が下がったケースは、原則として随時改定に該当しません(変動の方向が一致しないため)。逆のケースも同様です
- パートの契約時間変更は該当する…時給が同じでも、週の所定労働時間を増減させれば固定的賃金の変動です。シフトを恒常的に増やしたときは検討対象になります
- 通勤手当の変更も固定的賃金…引越しで通勤手当が変わった場合も固定的賃金の変動です。定期券代の改定も含まれるため、見落としやすい部分です
算定基礎届との違いと優先関係
| 項目 | 算定基礎届(定時決定) | 月額変更届(随時改定) |
|---|---|---|
| 時期 | 毎年7月1日〜10日に提出 | 該当したとき随時 |
| 対象月 | 4月・5月・6月の報酬 | 変動月以後の3か月 |
| 反映 | 9月分の保険料から | 変動月から4か月目 |
| 優先関係 | 7月・8月・9月に随時改定が行われる場合は、その年の定時決定は行わない(随時改定が優先) | |
- 7〜9月改定なら算定基礎届は不要…4月昇給で7月改定に該当する人は、その年の定時決定の対象から外れます。算定基礎届の対象者リストを作る段階で、随時改定の見込みを確認しておく必要があります
- 4月昇給の会社はここが毎年の論点…4月に昇給し、4〜6月の平均で2等級上がれば7月改定。この場合は月額変更届を出し、算定基礎届では対象外とします。両方出すと二重になるので注意します
- 年間平均での申立てという例外…業務の性質上、季節的に報酬が偏る場合は年間平均で算定する申立てが可能です。随時改定にも同様の仕組みがあります
実務の落とし穴
- 3か月待つ間に忘れる…昇給月の処理をした時点では届出できません。3か月後に判定するため、昇給した月に「3か月後に随時改定の判定」をカレンダーに入れるのが唯一の対策です
- 2等級の判定は標準報酬月額表で行う…報酬の増加額ではなく等級の差です。等級の境目にいる人は少額の昇給で2等級動くことがあり、逆に大きく上がっても1等級のこともあります
- 賞与は含めない…年3回以下の賞与は標準賞与額として別に扱うため、随時改定の報酬には含めません。年4回以上支給される賞与は報酬に含めます
- 提出が遅れると保険料の精算が発生する…遡って改定されるため、複数月分の保険料差額をまとめて調整することになります。給与計算のやり直しにもなるので、期限内に出すほうが手間が少ないです
- 健康保険と厚生年金で等級表が違う…厚生年金は上限があり、健康保険のほうが等級区分が多いです。どちらかで2等級動けば随時改定の対象になり得ます
当社は3名の会社で給与計算も自社処理ですが、随時改定はいちばん忘れやすい手続きです。昇給や手当の変更をした月に、3か月後の判定をタスクとして立てておく。この運用だけで漏れがなくなります。
よくある質問
Q残業が増えて給与が大幅に上がりました。月額変更届は必要ですか
不要です。随時改定には固定的賃金の変動が必要で、残業代のような稼働に応じて変わる部分だけの増減では該当しません。この状態は7月の算定基礎届(定時決定)で反映されます。
Q2等級以上の差はどう数えますか
報酬の増減額ではなく、標準報酬月額表の等級の差です。変動月以後3か月の報酬の平均額から算出した等級と、従前の等級を比べます。健康保険と厚生年金で等級表が異なるため、どちらかで2等級動けば対象になり得ます。
Q育児休業から復帰して給与が下がった場合はどうなりますか
随時改定とは別に「育児休業等終了時報酬月額変更届」という制度があります。3歳未満の子を養育する方が育休から復帰して報酬が下がった場合、本人の申出により1等級の差でも改定できます。
Q月額変更届の提出期限はいつですか
該当することが分かったら速やかに提出します。改定月は変動月から4か月目と決まっているため、その月の給与計算に間に合うように出すのが実務上の期限です。遅れると保険料の遡り精算になります。
まとめ
① 随時改定の3要件は①固定的賃金の変動 ②3か月平均で2等級以上の差 ③3か月とも支払基礎日数17日以上。
② 改定は変動後の報酬を初めて受けた月から4か月目から。4月昇給なら7月改定。
③ 残業代の増減だけでは該当しない。固定的賃金の変動が必須。
④ 通勤手当の変更やパートの所定労働時間の変更も固定的賃金の変動に当たる。
⑤ 7〜9月に随時改定が行われる人は、その年の定時決定(算定基礎届)の対象外。二重に出さない。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。