役員変更登記。「再任だから何もしなくていい」が一番危ない
役員変更登記でいちばん多い落とし穴は、「同じ人が続けるのだから何もしなくていい」という思い込みです。任期が満了すると、その役員はいったん退任しています。同じ人が続けるなら「重任」という登記が必要で、期限は変更が生じた時から2週間以内(会社法915条1項)。怠った代表者は100万円以下の過料に処される可能性があります(同976条)。
費用は登録免許税が資本金1億円以下なら1万円、1億円を超えると3万円。放置し続けた先には、最後の登記から12年でみなし解散という出口があります。
なぜ再任でも登記が必要なのか
法務省は「役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です」という案内を出しています。理由は、任期満了でいったん退任した扱いになるからです。
- 任期満了=退任…法務省の説明では「任期満了により退任した役員が再び就任するということになり、役員の登記事項に変更が生じています」。人が変わらなくても、就任年月日という登記事項が変わります
- 期限は2週間…会社法915条1項により、登記事項に変更が生じたときは2週間以内に本店所在地で登記します。定時株主総会で再任した場合は、総会の日が起算日です
- 過料は会社の罰金ではない…会社法976条の過料は代表者個人に対して科されます。会社の経費で払うものではなく、代表者の負担です
- 放置期間が長いと登記費用も増える…10年放置していれば、その間の任期満了と重任を全部さかのぼって登記します。登録免許税は原則として申請1件ごとなので同時申請でまとめられますが、株主総会議事録を過去分すべて用意する手間が発生します
任期を10年にするかどうか
取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで。監査役は4年です。ただし非公開会社(株式譲渡制限会社)なら、定款で最長10年まで伸長できます。
| 任期 | 10年間の登記回数 | 10年間の登録免許税 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| 2年(原則) | 5回 | 5万円 | 役員構成が変わる可能性がある会社 |
| 10年(定款で伸長) | 1回 | 1万円 | 代表者1人・親族のみの会社 |
費用だけを見れば10年が圧倒的に有利です。ただし実務では逆の落とし穴があります。
- 10年は「忘れる長さ」…2年ごとなら決算と一緒に思い出しますが、10年前の総会の日付を覚えている人はいません。忘れるリスクと引き換えに4万円を節約しているという構図です
- 役員を辞めさせたいときに困る…任期途中の解任は、正当な理由がなければ残任期間の報酬相当額を損害賠償として請求されることがあります(会社法339条2項)。任期が長いほどこの金額が大きくなります
- 親族以外を役員に入れるなら短く…共同創業や外部からの招へいがあるなら、2年か4年が無難です。関係が変わったときに任期満了という自然な区切りが使えます
- 妥協案は「定款は10年・管理は決算時」…定款上は10年にしておき、毎期の決算時に任期満了年を確認するチェックリストに入れておく運用です。当社も登記の期日管理は決算スケジュールに紐づけています
費用と必要書類
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税(資本金1億円以下) | 1万円 | 申請1件あたり |
| 登録免許税(資本金1億円超) | 3万円 | 同 |
| 司法書士報酬 | 1〜3万円台 | 自分で申請すれば不要 |
| 登記事項証明書(完了後の確認用) | 600円/490円 | 書面請求/オンライン請求・窓口交付 |
添付書類は会社の機関設計で変わります。代表者1人の会社であれば、そろえるのは実質3点です。
- 株主総会議事録…任期満了と再任(重任)を決議した記録。日付が起算日になるので、総会を開いた日を正確に書きます
- 就任承諾書…議事録に「被選任者は席上その就任を承諾した」と記載すれば、議事録が就任承諾書を兼ねる運用もできます
- 本人確認証明書…新任の取締役については住民票の写しなどが必要です。重任だけなら不要です
- 登記申請書…法務局のサイトに株式会社(役員変更)の様式と記載例が公開されています。取締役会設置会社で全員重任する場合の記載例も別に用意されています
放置の終着点=みなし解散
役員変更登記を放置すると、最後は職権で解散させられます。法務省は毎年「休眠会社等の整理作業」を実施しています。
- 対象は最後の登記から12年(株式会社)…一般社団法人・一般財団法人は5年です。事業を続けていても、登記だけ12年動いていなければ対象になります
- 直近の実例…2025年(令和7年)度は10月10日に管轄登記所から通知書を発送し、12月11日付けで登記官が職権で解散の登記をしました。届出の期限は12月10日でした
- 止める方法は2つ…期限までに必要な登記を申請するか、「まだ事業を廃止していない」旨の届出を出すことです。届出は用紙1枚で、費用もかかりません
- 解散されても3年以内なら会社継続できる…株主総会の特別決議と継続の登記が必要です。ただし解散登記が入った履歴は登記簿に残ります。金融機関や取引先に見られる場所です
通知書は登記上の本店に送られます。本店移転の登記をしていない会社は、通知に気づかないまま解散されるという最悪の順路に乗ります。本店を移したら、まずその登記です。
よくある質問
Q役員が任期満了になる年をどう調べればいいですか
登記事項証明書(履歴事項全部証明書)に取締役の就任年月日が載っています。その日付と定款の任期規定を突き合わせれば、次に満了する定時株主総会が分かります。定款が見つからない場合は、設立時の定款を公証役場や司法書士の控えから取り寄せることになります。
Q2週間を過ぎてしまいました。どうすればいいですか
すぐに登記を申請してください。期限後でも登記自体は受理されます。過料は必ず科されるものではなく、遅延の期間や事情によります。放置期間が長いほど過料の額が上がる傾向があるため、気づいた時点で出すのが最善です。
Q住所や氏名が変わっただけでも登記は必要ですか
代表取締役の住所は登記事項なので、変更があれば2週間以内に登記が必要です。取締役の氏名変更(婚姻など)も登記事項です。なお2024年10月から、代表取締役等の住所を登記事項証明書上で非表示にする措置が申出により利用できます。
Q自分で申請できますか
できます。法務局のサイトに様式と記載例があり、オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)にも対応しています。重任だけの単純な変更であれば、書類も3点程度です。定款変更や機関設計の変更が絡む場合は司法書士に相談したほうが早いです。
まとめ
① 再任(重任)でも登記が必要。任期満了でいったん退任しているため、就任年月日という登記事項が変わる。
② 期限は2週間(会社法915条1項)。怠ると代表者個人に100万円以下の過料(同976条)。
③ 登録免許税は資本金1億円以下で1万円、1億円超で3万円。
④ 任期10年は費用で有利だが忘れやすい。放置の終着点は最後の登記から12年でみなし解散(2025年度は10月10日通知→12月11日解散登記)。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。