身元保証書。極度額を書いていないと契約全体が無効になります
入社時に身元保証書をもらっている会社は多いですが、2020年4月1日以降に締結したもので極度額(上限額)の定めがないものは無効です。改正民法により、個人が保証人となる根保証契約では極度額を定めることが効力要件になりました。
身元保証書は「従業員が会社に損害を与えたときに保証人が賠償する」という契約なので、この規制の対象です。「一切の損害を賠償する」といった書き方では上限が特定できず無効になります。有効期間にも制限があり、定めがなければ3年、定めても最長5年。自動更新の条項も認められません。
極度額がないと無効
- 2020年4月1日施行の改正民法465条の2…個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ効力を生じません。身元保証も将来発生する不特定の債務を保証する契約なので対象です
- 「金◯円」と確定額で書く…「給与の6か月分」といった書き方は避けます。金額が特定できる形が求められます
- 金額の目安に法定基準はない…高額すぎると保証人が見つからず、低すぎると意味がありません。実務では50万円〜200万円程度で設定する例が見られますが、業務内容と想定リスクで判断します
- 改正前に締結したものは有効…2020年3月31日以前に締結した身元保証書は、極度額の定めがなくても当時の法律に従って有効です。ただし更新すれば新しい契約として規制の対象になります
- 会社が保証人になる場合は対象外…法人が保証人となる場合は極度額の規制がありません。ただし身元保証は通常、親族などの個人が保証人になります
有効期間の制限
| 区分 | 期間 |
|---|---|
| 期間の定めがない場合 | 3年 |
| 期間を定めた場合 | 最長5年(5年を超える定めは5年に短縮) |
| 更新 | 可能だが自動更新はできない(更新時に改めて締結) |
- 自動更新条項は無効…「期間満了後も同一条件で継続する」という定めは認められません。更新するなら期間満了時に新しい身元保証書を取り直します
- 更新すると極度額の定めが必要になる…改正前に締結したものでも、2020年4月以降に更新すれば新規契約として極度額が必須です
- 実務では更新していない会社が多い…入社時に一度取ったきりで、3年後に切れていることに気づかないケースです。期限管理をしていないなら、そもそも制度として機能していません
実際に請求できる範囲
- 会社にも通知義務がある…従業員に不適任または不誠実な事跡があって身元保証人の責任が生じるおそれがあるとき、会社は遅滞なく保証人に通知しなければなりません(身元保証ニ関スル法律3条)
- 通知を怠ると請求できなくなることがある…保証人は通知を受けたときに契約を解除できます。通知しないまま損害が拡大した場合、その分の請求が制限されます
- 裁判所が責任を減額できる…同法5条により、裁判所は使用者の監督上の過失、保証人が保証をするに至った事由、従業員の任務の変化などを考慮して責任の有無と金額を定めます。極度額まで全額認められるとは限りません
- 実際の回収は難しい…横領などの明確な事案でも、監督責任を問われて減額されることが多いのが実情です。抑止力としての意味が主と考えるのが現実的です
賃貸の連帯保証との違い
- 同じ改正の影響を受けている…賃貸借契約の連帯保証も個人根保証なので、2020年4月以降は極度額の定めが必要です。当社は賃貸の仲介・管理が本業なので、この改正には契約書の全面改訂で対応しました
- 賃貸では保証会社への移行が進んだ…極度額を明示すると保証人が躊躇するため、個人保証から家賃保証会社へ切り替える流れが加速しました。雇用の身元保証にも同じ構造があると考えられます
- 極度額の設定水準が論点になる…賃貸では家賃の24か月分といった設定が一般的です。雇用では想定される損害が読みにくいため、金額の根拠を説明しにくいという難しさがあります
- 取るなら形式を整える…極度額を記載し、期間を明示し、更新の運用を決める。この3点を満たさない身元保証書は、あってもなくても同じです
当社は賃貸の連帯保証で極度額の実務を毎日扱っている立場ですが、雇用の身元保証は性質が違います。賃貸は家賃という明確な債務があるのに対し、雇用は損害が不確定です。だからこそ極度額の設定が難しく、多くの会社が形骸化させたまま持っています。取るなら形式を整える、整えられないなら取らないという判断が必要です。
よくある質問
Q2020年3月以前に取った身元保証書は無効ですか
無効ではありません。締結時の法律に従って有効です。ただし更新すると新規契約として扱われ、極度額の定めが必要になります。
Q極度額はいくらに設定すればよいですか
法定の基準はありません。業務内容と想定される損害から判断します。高額すぎると保証人が見つからず、低すぎると意味がないため、実務では50万円〜200万円程度で設定する例が見られます。
Q身元保証書は必ず取らなければいけませんか
法律上の義務はありません。取るかどうかは会社の判断です。ただし取るなら極度額と期間の要件を満たす必要があり、形式を整えられないなら取らない選択もあります。
Q身元保証人に請求すれば全額回収できますか
難しいのが実情です。裁判所は使用者の監督上の過失などを考慮して責任を減額できるため、極度額まで認められるとは限りません。抑止力としての意味が主になります。
まとめ
① 2020年4月から極度額の定めがない身元保証書は無効(改正民法465条の2)。
② 極度額は確定額で書く。「一切の損害」「給与の6か月分」では不可。
③ 有効期間は定めがなければ3年、定めても最長5年。自動更新は不可。
④ 会社には保証人への通知義務があり、怠ると請求が制限される。
⑤ 裁判所が責任を減額できるため、極度額まで回収できるとは限らない。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。