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家賃の値上げ通知 拒否できます。 貸主側の事情も知ってください 値上げ通知を「出す側」の実務から書きました 退去されると貸主が失う額 家賃4〜6ヶ月分 月3,000円の値上げでは回収に7年以上

家賃の値上げは拒否できます。そして貸主は、退去されると損をすることを知っています

結論

家賃の値上げは、あなたが合意しない限り成立しません。通知が来ても、それは「お願い」であって決定ではありません。拒否しても契約は法定更新でそのまま続き、値上げを拒否したことだけを理由に退去させることもできません(借地借家法)。

この記事が他と違うのは、値上げ通知を出す側の事情を書くことです。私たちは賃貸管理の実務で貸主側にも立ちます。その立場から言うと——貸主は退去されると家賃4〜6ヶ月分を失います。月3,000円の値上げでは、回収に7年以上。だから強気の値上げ強行は、実は貸主にとっても割に合わないのです。この構造を知っていれば、感情的にならずに数字で交渉できます。

法律の構造:値上げは「合意」がなければ成立しない

賃料の増額は、借地借家法32条の「賃料増減額請求」という仕組みで動きます。ポイントは3つだけです。

拒否したらどうなるか:契約は「法定更新」で続く

いちばん多い誤解が「拒否したら更新してもらえず、出ていくことになるのでは」です。順番はこうなります。

  1. 更新書類にサインしなくても、契約は自動で続きます…期間満了までに合意ができなければ、契約は従前と同じ条件で法定更新されます(借地借家法26条)。家賃も従前のままです
  2. 値上げ拒否を理由に追い出すことはできません…貸主からの更新拒絶には「正当事由」(同法28条)が必要で、これは立ち退き料を積んでも簡単には認められない厳しい要件です。値上げに応じないこと自体は正当事由になりません
  3. 家賃は「今までの額」を払い続けてください…増額を請求された側は、決着がつくまで自分が相当と考える額(=従前の家賃)を払えば債務不履行になりません(32条2項)。もし受け取りを拒まれたら法務局に供託します

ただし1つだけ例外があります。契約書に「定期建物賃貸借(定期借家)」とある場合、法定更新はありません。期間満了で終了し、続けるには再契約=新条件の合意が必要で、力関係が逆になります。まず契約書の種類を確認してください。普通借家か定期借家かで、この記事の前提が変わります。

貸主側の実情:退去されると家賃4〜6ヶ月分を失う

ここからが、管理実務をやっている私たちにしか書けない部分です。値上げを強行して借主に退去されたとき、貸主に何が起きるか。家賃10万円の部屋の実務水準で並べます。

借主が退去したとき貸主側に発生する費用(家賃10万円の部屋・賃貸管理の実務水準)
項目内容金額の目安
原状回復の貸主負担分経年劣化・通常損耗の修繕、クロス・設備の更新5〜15万円
募集の広告料(AD)仲介会社に払う成約報酬。都内は1〜2ヶ月分が実務水準10〜20万円
空室期間の逸失賃料退去から次の入居まで1〜3ヶ月10〜30万円
フリーレント等の募集条件決めるために付ける無料期間・礼金ゼロ化0〜10万円
合計25〜65万円(家賃2.5〜6.5ヶ月分)

一方、月3,000円の値上げが通ったときの増収は年36,000円。退去で失う40万円前後を取り返すには7〜18年かかります。つまり「値上げを飲まないなら出て行ってくれ」は、貸主にとって経済合理性のない選択です。まともな貸主・管理会社ほどこの計算を知っているので、きちんと反論する借主に強行はしません。

借主側の損益分岐:引っ越しも高くつく

フェアに、借主側の数字も出します。値上げが嫌で引っ越す場合、家賃10万円の部屋なら初期費用と引越し代で50万円前後かかります。月3,000円の値上げを受け入れた場合と比べると、引っ越しの元を取るには14年。「引っ越すぞ」も実は割に合いません

結論はこうなります。双方にとって退去は最悪手。だからこの交渉は、脅し合いではなく「据え置き〜小幅の間のどこで折り合うか」という数字の話に持ち込むのが正解です。

実際の進め方:成功する拒否と、失敗する拒否

  1. 書面で根拠を求める…「32条の増額理由(税負担・価格上昇・近隣相場)のどれに当たるか、資料を示してほしい」と書面かメールで返します。感情ではなく手続きで返すのが第一歩です
  2. 相場の反証を集める…同じ建物・同じ間取りの現在の募集賃料を検索して控えます。新規募集の賃料があなたの現行家賃より安ければ、それが最強の反証です
  3. 対案を出す…全面拒否で膠着させるより「据え置きなら即更新する」「半額なら応じる」の対案が、実務ではいちばん早く決着します
  4. 合意できなくても、従前の家賃を払い続ける…これで滞納にはなりません。受領拒否されたら供託。ここまで来る案件はごく少数です

失敗するパターンも決まっています。①腹を立てて家賃を止める(滞納は契約解除事由になり、一気に立場を失います)、②法定更新を知らずに「更新できないなら」と自分から退去してしまう③口頭だけでやり取りして記録が残らない。この3つだけは避けてください。

よくある質問

Q更新書類にサインしないと、更新料はどうなりますか

法定更新になった場合に更新料を払う義務があるかは、契約書の文言によって結論が分かれる論点です(判例も契約書の書き方次第で分かれています)。少なくとも「サインしていないから契約が消える」ことはありません。更新料条項の文言を確認し、争いになりそうなら自治体の無料相談や弁護士に契約書を見せるのが確実です。

Q値上げに応じないと嫌がらせや契約解除をされませんか

従前の家賃を払い続けている限り、債務不履行はありません。解除には信頼関係の破壊が必要で、増額協議中であること自体は解除事由になりません。やり取りを書面・メールで残しておけば、その記録があなたを守ります。

Q貸主側の値上げに正当な理由があるケースはありますか

あります。固定資産税の上昇、管理費・修繕費の高騰、周辺相場との明確な乖離が実際にある場合です。ここ数年は建物の維持コストが全国的に上がっており、根拠資料つきの小幅な増額依頼は「まともな値上げ」であることも多い。その場合は小幅で折り合うのが、長く住むうえでは合理的です。

Q立ち退き料をもらって出る選択肢はありますか

貸主側がどうしても退去してほしい事情(建替えなど)がある場合、立ち退き料の話になることがあります。ただしそれは更新拒絶の正当事由を補完するための貸主側の提案であって、借主から請求できる決まった権利ではありません。金額も個別交渉です。値上げ交渉とは別の局面と考えてください。

まとめ

この記事の要点

① 値上げは合意しないと成立しない。通知は決定ではない。
② 拒否しても法定更新で契約は続く。値上げ拒否は追い出す理由にならない(定期借家だけは例外)。
③ 貸主は退去されると家賃4〜6ヶ月分を失う。月3,000円の値上げでは回収に7年以上——強行は貸主にも割に合わない。
④ 進め方は「書面で根拠を求める→相場の反証→対案→従前家賃を払い続ける」。滞納だけは絶対にしない。

この記事は2026年7月27日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。

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