退職金規程。作れば支払義務が生じ、作らなければ支払義務はありません
退職金の支給は法律上の義務ではありません。労働基準法にも支給を義務づける規定はなく、制度を設けるかどうかは会社の判断です。
ただしいったん退職金規程を作れば、その内容が労働契約の内容となり支払義務が生じます。また規程がなくても、長年にわたり一定の基準で支給してきた慣行があれば、支払義務が認められることがあります。作るなら計算方法と支給制限を明確に、作らないならその旨を就業規則に書いておくのが実務です。
法的な位置づけ
- 制度を設けるかは自由…退職金の支給を義務づける法律はありません。中小企業の導入率は業種によって差があります
- 定めたら絶対的必要記載事項になる…退職金制度を設ける場合、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法、支払の時期を就業規則に記載しなければなりません(労基法89条3号の2)
- 賃金として扱われる…規程に基づいて支給される退職金は労働基準法上の賃金です。したがって全額払いの原則や、退職労働者からの請求があれば7日以内に支払う義務(労基法23条)が適用されます
- 慣行でも義務が生じうる…規程がなくても、支給基準が明確で長期間反復継続して支給されていれば、労働契約の内容になっていると判断されることがあります
- 作らない場合は明記する…「退職金は支給しない」と就業規則に書いておけば、後の争いを避けられます
規程に定める内容
- 適用範囲…正社員のみか、パートも含むか。勤続年数の下限(例:勤続3年以上)を設けるかを決めます
- 計算方法…基本給連動型(退職時の基本給×支給率)、ポイント制、定額制などがあります。基本給連動型は昇給に伴い退職金債務が膨らむ点に注意します
- 支給率…勤続年数と退職事由(自己都合・会社都合)で区分するのが一般的です
- 支払時期…「退職後◯か月以内」と定めます。定めがなければ請求から7日以内になります
- 支給制限…懲戒解雇の場合の減額・不支給、競業避止義務違反の場合の取扱いなどを定めます
- 中退共を使えば資金準備と規程が両立する…中小企業退職金共済に加入すれば、掛金が損金になり、退職金は機構から直接支払われます。規程は中退共の給付を退職金とする内容にできます
- ポイント制なら基本給と切り離せる…等級や勤続年数でポイントを積み上げる方式なら、昇給が退職金債務に直結しません
- 自己都合と会社都合で差を設けるのが通常…自己都合退職の支給率を低くする設計が一般的です
懲戒解雇時の不支給
- 規程に定めがなければ減額できない…退職金は賃金なので、規程に支給制限の定めがなければ、懲戒解雇でも全額支払う必要があります
- 定めがあっても全額不支給は認められにくい…裁判例では、それまでの勤続の功を抹消してしまうほどの重大な背信行為があった場合に限り全額不支給が認められる、という枠組みが取られています
- 一部支給という判断が多い…横領などの明確な事案でも、勤続年数や情状を考慮して3割〜5割の支給を命じる判決があります
- 中退共は会社が止められない…中退共から支払われる退職金は、懲戒解雇でも原則として従業員に支払われます。減額するには厚生労働大臣の認定が必要です。自社規程で不支給としていても、中退共の給付は止まりません
- 支給後に非違行為が判明した場合…返還請求の規定を設けておくことはできますが、実際の回収は容易ではありません
不利益変更の限界
- 退職金の減額は不利益変更…就業規則の変更による労働条件の不利益変更は、変更後の内容の合理性が必要です(労働契約法10条)
- 退職金は特に厳格に判断される…賃金・退職金といった重要な労働条件の不利益変更には高度の必要性に基づいた合理的な内容が求められるとされています
- 経過措置を設けるのが実務…既得分を保障する、変更前の勤続期間分は旧基準で計算するなどの措置を設けます
- 個別の同意を取る…同意があれば変更できますが、自由な意思に基づく同意であることが必要です。書面で説明と同意を残します
- 制度の廃止はさらに難しい…既に発生している権利を消滅させることはできません。新規採用者から適用しない形にするのが現実的です
当社は3名の会社で、退職金制度をどう設計するかは現実の検討課題です。中退共なら掛金が損金になり資金も外部に積み立てられますが、いったん始めると減額に従業員の同意が必要になります。「作らない」という選択も含めて、就業規則に明記しておくことが出発点になります。
よくある質問
Q退職金を支払わなくても違法ではありませんか
違法ではありません。退職金の支給を義務づける法律はなく、制度を設けるかは会社の判断です。ただし就業規則や規程に定めた場合、または慣行が確立している場合は支払義務が生じます。
Q懲戒解雇なら退職金を払わなくてよいですか
規程に支給制限の定めがあることが前提です。定めがあっても全額不支給が認められるのは、それまでの勤続の功を抹消するほどの重大な背信行為があった場合に限られます。
Q中退共に加入していれば懲戒解雇でも支払われますか
原則として支払われます。会社が減額を申し出て厚生労働大臣の認定を受けた場合を除き、退職金は従業員に直接支払われます。自社規程で不支給としていても中退共の給付は止まりません。
Q退職金制度を廃止できますか
既に発生している権利を消滅させることはできません。不利益変更には高度の必要性と合理性が必要です。新規採用者から適用しない形にするのが現実的です。
まとめ
① 退職金の支給は法律上の義務ではない。制度を設けるかは会社の判断。
② 定めたら就業規則の絶対的必要記載事項になり、賃金として支払義務が生じる。
③ 規程がなくても慣行があれば義務が認められることがある。作らないなら明記する。
④ 懲戒解雇での不支給は規程の定めが前提で、全額不支給が認められるのは限定的。
⑤ 中退共の給付は会社が止められない。減額には厚生労働大臣の認定が必要。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。