修繕費と資本的支出。迷ったら60万円未満と前期末取得価額10%以下
建物や機械の修理・改良にかかった支出は、修繕費(全額その期の損金)か資本的支出(資産に計上して減価償却)かに分かれます。判断の原則は、その支出が資産の価値を高めるか、使用可能期間を延ばすかです。
とはいえ実際の工事は原状回復と改良が混ざっていて、判断がつかないことが多い。そこで国税庁の通達には形式基準があります。①1件20万円未満 ②おおむね3年以内の周期で行われる修理 ③金額が60万円未満 ④前期末取得価額のおおむね10%以下のいずれかに当たれば修繕費として処理できます。当社は原状回復工事の見積書を毎月見る立場なので、その実務から整理します。
原則の判断
| 区分 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 修繕費 | 通常の維持管理・原状回復のための支出 | 破損箇所の補修、定期的な塗装、部品交換 |
| 資本的支出 | 資産の価値を高める、または使用可能期間を延ばす支出 | 用途変更のための改造、避難階段の取付け、性能向上の改良 |
- 「元に戻す」なら修繕費…壊れたものを直す、劣化した部分を元の状態に戻すのは修繕費です
- 「良くする」なら資本的支出…以前より性能が上がる、使える期間が延びる、用途が広がる場合は資産計上です
- 通達に例示がある…建物の避難階段の取付けなど物理的に付加した部分、用途変更のための模様替え、機械の部品を品質の高いものに取り替えた場合の差額などが資本的支出として例示されています
- 1つの工事に両方が混ざる…原状回復と改良が同時に行われる工事では、見積書の項目ごとに区分するのが基本です。区分できない場合に形式基準を使います
形式基準で修繕費にできる場合
- 1件20万円未満なら修繕費…1つの修理・改良にかかった金額が20万円未満であれば、内容を問わず修繕費として処理できます
- おおむね3年以内の周期なら修繕費…定期的に行われる修理・改良であれば金額を問いません。定期的な外壁塗装などが該当します
- 区分が明らかでない場合の60万円基準…その金額が60万円未満なら修繕費として処理できます
- 区分が明らかでない場合の10%基準…その支出が、修理・改良した資産の前期末取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費にできます
- 60万円と10%はどちらか有利な方…両方の基準を満たす必要はありません。いずれかに該当すれば修繕費です
- 「前期末取得価額」は帳簿価額ではない…減価償却後の簿価ではなく、取得価額(+過去の資本的支出)です。古い建物でも取得価額が大きければ10%基準が使えます
- 区分が明らかな場合は使えない…明らかに価値を高める工事だと分かっている場合、60万円未満でも資本的支出です。形式基準は「判断がつかない場合」の救済です
- 継続適用の要件がある割合区分もある…支出額の30%と前期末取得価額の10%のいずれか少ない金額を修繕費とする方法もありますが、継続適用が条件です
原状回復工事の判断
- 賃借人が行う原状回復は原則として修繕費…退去時に元の状態に戻す工事は、価値を高めるものではないため修繕費です
- ただし内装をグレードアップすれば資本的支出…同じ工事の中で床材を上位グレードに変えた、間仕切りを追加したといった部分は資産計上です
- 賃借している建物への造作は別枠…賃借した建物に施した内装工事は「建物附属設備」等として資産計上し、賃借期間を耐用年数として償却できる場合があります(賃借期間の定めがあり更新できないなどの要件)
- 見積書の項目名で判断しない…「原状回復工事一式」という記載では区分できません。クロス張替え、床補修、設備交換といった内訳を出してもらうことが判断の前提です
- 当社の実務…管理物件の原状回復では、貸主の会計処理を考えて見積書の内訳を細かく分けてもらいます。一式計上だと税務上の区分ができず、判断を保留せざるを得なくなるためです
資本的支出になった場合の処理
- 原則は新たな資産として計上する…資本的支出は、その資産と種類・耐用年数を同じくする新たな資産を取得したものとして扱います
- 既存資産の取得価額に加算する方法もある…一定の要件のもとで、既存資産の取得価額に加算して償却する処理も認められます
- 中古資産への資本的支出は注意…中古資産に対する資本的支出の額が、その資産の再取得価額の50%を超える場合、中古資産の簡便法による耐用年数が使えなくなります
- 少額減価償却資産の特例は使える…資本的支出であっても、金額が40万円未満(2026年4月以後の取得)なら中小企業者等の特例で全額損金にできる場合があります
この論点は「どちらでも説明がつく」場面が多く、だからこそ形式基準が用意されています。60万円未満、または前期末取得価額の10%以下。この2つを覚えておけば、小規模な工事の大半は修繕費として処理できます。判断が微妙な大型工事だけ税理士に相談する、という切り分けが現実的です。
よくある質問
Q外壁塗装は修繕費になりますか
定期的に行う塗装であれば修繕費です。おおむね3年以内の周期で行われる修理・改良は金額を問わず修繕費として処理できます。周期が長い場合でも、原状回復にとどまるなら修繕費です。
Q60万円と10%はどちらを使えばよいですか
いずれか有利な方で構いません。両方の基準を満たす必要はなく、どちらかに該当すれば修繕費として処理できます。
Q前期末取得価額とは帳簿価額のことですか
違います。減価償却後の簿価ではなく取得価額(過去の資本的支出を含む)です。古い資産でも取得価額が大きければ10%基準の枠が大きくなります。
Q賃借している事務所の内装工事はどう処理しますか
賃借建物への造作として資産計上し、一定の要件を満たせば賃借期間を耐用年数として償却できる場合があります。原状回復にとどまる部分は修繕費です。
まとめ
① 原則は価値を高める・使用可能期間を延ばすなら資本的支出、元に戻すなら修繕費。
② 1件20万円未満またはおおむね3年以内の周期なら内容を問わず修繕費。
③ 区分が明らかでない場合、60万円未満または前期末取得価額のおおむね10%以下で修繕費にできる。
④ 「前期末取得価額」は簿価ではなく取得価額。
⑤ 見積書は内訳を出してもらう。一式計上では区分できない。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。