会社を休眠させる。ただし東京都では均等割は止まりません
「休眠」は法律用語ではありません。会社を残したまま事業を止め、申告だけ続けている状態を実務でそう呼んでいるだけです。だから登記は消えず、届出をしても会社は存在し続けます。
そして最大の誤解がここです。東京都では、休眠中の株式会社も法人都民税の均等割がかかります。東京都の均等割免除は、都税条例で列挙されたNPO法人や公益法人などが対象で、収益事業をしていない株式会社が対象になる制度ではありません。資本金1,000万円以下・従業員50人以下なら年7万円。10年休眠すれば70万円です。それでも解散より休眠を選ぶ理由があるのかを、費用で並べて考えます。
休眠とは何をすることか
- 法律上の手続きではない…会社法に「休眠」という制度はありません。登記簿に「休眠」と記録されることもなく、第三者から見れば普通に存続している会社です
- やるのは税務上の届出だけ…事業を廃止した旨を税務署と地方自治体に届け出ます。これにより申告書の送付や予定納税の扱いが変わります
- 申告義務は残る…事業をしていなくても、法人である以上は申告が必要です。売上ゼロの申告書を毎期出し続けることになります
- 再開はいつでもできる…事業を再開する旨の異動届を出せば戻れます。会社を解散して新しく作り直すより、この点が休眠の最大の価値です
手続き(届出先は3か所)
| 提出先 | 書類 | 備考 |
|---|---|---|
| 税務署 | 異動届出書 | 事業を廃止した旨を記載。給与の支払いがなくなるなら給与支払事務所等の廃止届も |
| 都道府県(東京都は都税事務所) | 異動届出書 | 東京都は事務所等の廃止から10日以内 |
| 市区町村 | 異動届出書 | 23区内は都税事務所への届出に一本化される |
- 登記は何もしない…休眠に登記手続きはありません。逆に言えば、役員の任期が満了すれば休眠中でも役員変更登記が必要です。ここを放置すると後述のみなし解散に向かいます
- 社会保険・雇用保険の手続きは別途…従業員がいなくなるなら、健康保険・厚生年金の適用事業所の全喪手続きと、労働保険の確定精算が必要です
- 法人口座は維持したほうが早い…再開の見込みがあるなら、口座を解約すると再開時に新規開設の審査を受け直すことになります。休眠中も口座維持手数料がかかる銀行が増えているので、そこは確認が必要です
- 青色申告の承認は取り消されうる…2期連続で申告書を期限内に提出しないと、青色申告の承認が取り消されます。休眠中も期限内申告を続けることが、再開時に繰越欠損金を使う条件になります
均等割は止まるのか
ここが記事の本題です。「休眠すれば均等割が免除される」という説明を見かけますが、東京都では成り立ちません。
- 東京都の均等割免除の対象は限定列挙…東京都主税局が案内している免除対象は、公益財団法人・公益社団法人、および都税条例施行規則で定める法人(特定非営利活動法人、管理組合法人など)です。収益事業を行っていない株式会社は含まれていません
- つまり赤字でも休眠でも年7万円…資本金1,000万円以下・従業員50人以下の標準的な会社で年7万円(都民税均等割)。これは所得がゼロでもかかる税金です
- 市区町村によっては減免がある…23区外や他県では、事業を行っていない法人の均等割を減免する条例を持つ自治体もあります。所管の市区町村と都道府県税事務所に個別に確認するのが唯一の正解です
- 「休眠なら均等割ゼロ」と書いてある記事の読み方…減免制度がある自治体の話か、免除対象法人の話をしている可能性があります。自社の所在地の運用を確認せずに前提にしないことです
当社は東京都内の株式会社なので、この判定は他人事ではありません。均等割は赤字でもかかる固定費という点で、休眠の維持コストそのものになります。
解散との比較と、12年でみなし解散
| 項目 | 休眠 | 解散・清算結了 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 0円(届出のみ) | 登録免許税 解散30,000円+清算人選任9,000円+清算結了2,000円=41,000円 |
| 官報公告 | 不要 | 債権者保護手続きの解散公告が必要(官報1枠40,882円〜) |
| 専門家報酬 | 0〜数万円 | 司法書士・税理士で10万円前後〜 |
| 毎年の維持費 | 均等割 年7万円+申告の手間 | 0円(会社が消滅) |
| 再開 | 異動届で可能 | 不可(新設が必要) |
- 2年で逆転する…解散の総額を15万円前後とすると、均等割7万円の休眠はおおむね2年で解散費用を追い越します。「数年以内に再開する見込みがあるか」が唯一の判断軸です
- 放置すると12年でみなし解散…最後の登記から12年経過した株式会社は、法務省の休眠会社整理作業の対象になります。2025年度は10月10日に通知書が発送され、12月11日付けで登記官が職権で解散の登記をしました
- 通知は登記上の本店に届く…事務所を引き払って本店移転の登記をしていない会社は、通知に気づかないまま解散させられます。休眠中こそ本店の登記が実態と合っているかが効きます
- 止める方法は用紙1枚…期限までに「まだ事業を廃止していない」旨の届出を出すか、必要な登記を申請すれば解散を免れます。届出に費用はかかりません
みなし解散の後も3年以内なら株主総会の特別決議と継続の登記で会社を復活できますが、解散の履歴は登記簿に残ります。融資や取引の審査で見られる場所なので、休眠を選ぶなら役員変更登記だけは続けるという判断になります。
よくある質問
Q休眠中も税理士に依頼する必要がありますか
売上ゼロの申告書であれば自社で作成している会社もあります。ただし2期連続で期限内申告を欠くと青色申告の承認が取り消されるため、再開時に繰越欠損金を使う予定があるなら、期限管理だけは確実にする必要があります。
Q休眠会社を買う・売るという話を聞きますが
許認可や古い設立年を目的に売買されることがあります。ただし過去の債務や税務リスクが会社に付いてくるため、買う側にはデューデリジェンスが必要です。設立費用の節約という理由だけで選ぶ手段ではありません。
Q役員の任期が切れていても休眠なら放置してよいですか
よくありません。休眠中でも役員変更登記の義務は残り、2週間の期限を過ぎれば過料の対象です。加えて登記が動かないままだと12年でみなし解散の対象になります。
Q均等割の減免があるか、どこに聞けばいいですか
都道府県分は所管の県税事務所・都税事務所、市区町村分は市区町村の税務担当課です。東京23区の場合は都税事務所に一本化されています。制度の有無は条例次第なので、一般論ではなく所在地で確認してください。
まとめ
① 「休眠」は法律用語ではない。登記は残り、申告義務も残る。
② 手続きは異動届出書を税務署・都道府県・市区町村へ。東京都は事務所等の廃止から10日以内。
③ 東京都の均等割免除はNPO法人など条例列挙の法人が対象で、休眠中の株式会社は対象外。年7万円は続く。
④ 解散の総額は15万円前後。均等割7万円なら約2年で逆転する。判断軸は再開の見込み。
⑤ 放置すると最後の登記から12年でみなし解散。通知は登記上の本店に届く。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。