固定残業代。3つの要件を欠くと、全額が基礎賃金に戻ります
固定残業代は「毎月一定額の残業代を先に払っておく」仕組みですが、払っておけば何時間でも残業させられる制度ではありません。有効と認められるには3つの要件が必要です。
①通常の労働時間の賃金と固定残業代が明確に区分されていること ②固定残業代が何時間分でいくらなのかが明示されていること ③その時間数を超えた分は別途支払うこと。要件を欠くと固定残業代は残業代として認められず、その金額も基礎賃金に含めて時間単価を計算し直したうえで、残業代を全額別に支払うことになります。単価が上がるので、支払額は当初の想定を大きく超えます。
3つの要件
- 明確区分性…基本給と固定残業代が区別できること。「基本給30万円(残業代含む)」という書き方では区分されていません
- 時間数と金額の明示…「固定残業手当5万円(時間外労働30時間分)」のように、何時間分でいくらかを示します
- 超過分の別途支払い…明示した時間数を超えて働いた分は、追加で割増賃金を払うこと。就業規則や契約書にその旨を定め、実際に支払います
- 手当の名称は問わない…「営業手当」「職務手当」でも、上の3要件を満たしていれば固定残業代として認められることがあります。逆に「固定残業手当」という名前でも要件を欠けば無効です
- 実際に超過分を払っているかが見られる…規定があっても支払実績がなければ、制度全体の有効性が疑われます。毎月の勤怠と支給の突合が証拠になります
- 深夜割増は別…固定残業代が時間外労働分だけなら、深夜(22時〜5時)の割増は別途必要です。何の割増を含むのかを明示します
- 基本給を下げて固定残業代に振り替えるのは不利益変更…同意なく行えば無効と判断される可能性があります
要件を欠いた場合の計算
| 項目 | 有効な場合 | 無効な場合 |
|---|---|---|
| 固定残業代の扱い | 残業代の一部として支払済み | *基礎賃金に算入される |
| 時間単価 | 基本給ベース | 基本給+固定残業代ベースで上がる |
| 残業代の支払い | 超過分のみ | 全時間分を新しい単価で計算して支払う |
- 二重の負担になる…すでに払った固定残業代は残業代として認められず、基礎賃金の一部とみなされます。単価が上がったうえで、残業代を全部払い直すという結果です
- 遡及期間は当面3年…賃金請求権の時効は5年(当分の間3年)です。数年分をまとめて請求されると金額が大きくなります
- 付加金が命じられることもある…裁判所は未払い額と同額の付加金の支払いを命じることができます(労基法114条)
何時間分まで設定できるか
- 法律上の上限はないが、36協定の枠を超える設定は問題…原則の上限は月45時間・年360時間です。月80時間分の固定残業代といった設定は、公序良俗違反として無効と判断されるリスクがあります
- 実態と乖離していないか…実際の残業が月5時間なのに40時間分の固定残業代を設定していると、賃金の一部を残業代と称しているだけと見られかねません
- 20〜30時間分が実務上の目安…36協定の原則的上限(45時間)の範囲内で、実態に近い時間数にするのが安全です
- 残業が発生しない月も支払う…固定残業代は残業の有無にかかわらず支払います。残業がなかった月に控除することはできません
求人票と契約書の書き方
- 求人票への明示が義務…固定残業代を採用する場合、職業安定法に基づく指針により、①固定残業代を除いた基本給の額 ②固定残業代の額と時間数 ③超過分を支払う旨 を明示する必要があります
- 労働条件通知書にも同じ内容を記載…採用時に交付する書面でも同様に明示します。求人票と契約書で金額が違うといった不整合は争いのもとです
- 就業規則にも定める…賃金の決定・計算方法は絶対的必要記載事項です。固定残業代の趣旨、対象となる割増賃金の種類、超過分の取扱いを規定します
- 給与明細でも区分する…基本給と固定残業手当を分けて表示し、超過分があれば別項目で支給します。明細が3要件の証拠になります
固定残業代は「残業代を払わなくて済む制度」ではなく、「一定額を前払いする制度」です。当社は導入していませんが、導入するなら求人票・契約書・就業規則・給与明細の4点で同じ内容が書かれている状態を作ることが前提になります。どれか1つでも欠けると、要件を満たさないと判断されるリスクが出ます。
よくある質問
Q固定残業代を払っていれば何時間残業させてもよいですか
いけません。明示した時間数を超えた分は別途支払う必要があります。また36協定の上限(原則月45時間・年360時間)を超える労働をさせることもできません。
Q残業がなかった月に固定残業代を控除できますか
できません。固定残業代は残業の有無にかかわらず支払う性質のものです。控除すると賃金の減額になります。
Q「基本給に残業代を含む」という定め方は有効ですか
無効と判断される可能性が高いです。通常の労働時間の賃金と固定残業代が明確に区分されていないため、明確区分性の要件を欠きます。
Q営業手当を固定残業代として扱えますか
3要件を満たしていれば認められることがあります。ただし手当の趣旨が残業代であることを就業規則や契約書で明示し、時間数と金額を示す必要があります。
まとめ
① 有効要件は①明確区分 ②時間数と金額の明示 ③超過分の別途支払いの3つ。
② 要件を欠くと固定残業代が基礎賃金に算入され、単価が上がったうえで残業代を全額払い直すことになる。
③ 法律上の上限はないが、36協定の原則的上限(月45時間)を超える設定は無効リスク。実務は20〜30時間分。
④ 残業がなかった月も支払う。控除はできない。
⑤ 求人票・契約書・就業規則・給与明細の4点で同じ内容を明示する。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。