企業型確定拠出年金。掛金は全額損金で、選択制なら社会保険料も下がります
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が掛金を拠出し、従業員が自分で運用する年金制度です。税制上の扱いが有利で、①会社の掛金は全額損金 ②従業員への給与課税なし ③運用益は非課税 ④受取時も退職所得控除または公的年金等控除が使えます。
さらに選択制という仕組みがあります。給与の一部を掛金に振り替える方式で、その分は給与ではなくなるため社会保険料の算定基礎から外れます。会社も従業員も保険料負担が減りますが、将来の厚生年金や傷病手当金も減るという副作用があります。
制度の仕組み
| 場面 | 扱い |
|---|---|
| 会社の掛金 | 全額損金算入 |
| 従業員 | 給与課税なし(掛金は所得にならない) |
| 運用中 | 運用益は非課税 |
| 受取時(一時金) | 退職所得控除 |
| 受取時(年金) | 公的年金等控除 |
- 従業員が自分で運用する…定期預金、保険、投資信託などから選びます。運用結果によって受取額が変わるのが確定給付型との違いです
- 原則60歳まで引き出せない…老後資金の形成が目的の制度です。途中で必要になっても使えません
- マッチング拠出という仕組みもある…従業員が自分の給与から上乗せして拠出する方式で、その分は全額所得控除になります
- iDeCoとの併用…要件を満たせば、企業型DCに加入しながらiDeCoにも加入できます
- 拠出限度額がある…他の企業年金の有無によって、月額の上限が定められています
選択制という方式
- 給与の一部を「生涯設計手当」等に組み替える…就業規則・賃金規程を改定し、給与の一部を掛金の原資となる手当に振り替えます
- 従業員が選択する…その手当を「掛金として拠出する」か「給与として受け取る」かを、従業員が選びます
- 掛金を選べば社会保険料の対象外…掛金は報酬に該当しないため、標準報酬月額の算定基礎から外れます
- 給与を選べば従来どおり…社会保険料も所得税もかかります
- 会社の負担が増えない設計…新たに掛金を上乗せするのではなく、既存の給与を振り替えるため、人件費の総額は変わりません
- 会社の社会保険料も減る…従業員が掛金を選べば、会社負担分の社会保険料も減ります。これが導入の動機になることがあります
- 従業員の手取りも増えうる…社会保険料と所得税が減るためです
- 制度設計に専門知識が要る…賃金規程の改定を伴うため、社労士や運営管理機関と設計します
選択制の副作用
- 将来の厚生年金が減る…標準報酬月額が下がるため、老齢厚生年金の額が減ります。これが最大の副作用です
- 傷病手当金・出産手当金も減る…標準報酬日額を基礎に計算されるため、給付額が下がります
- 失業給付も減りうる…雇用保険の基本手当の額は賃金日額に基づくため、影響します
- 住宅ローンの審査に影響することがある…給与明細上の額面が下がるためです
- 本人への説明が不可欠…目先の手取りだけで判断させてはいけません。将来の年金が減ることを含めて説明し、選択してもらう必要があります
- 説明を怠るとトラブルになる…後から「聞いていない」となれば、制度自体への不信につながります。書面で説明し、同意を記録するのが実務です
導入の実務
- 運営管理機関を選ぶ…金融機関や専門の運営管理機関が提供しています。手数料と商品ラインナップを比較します
- 規約を作成し承認を受ける…企業型DCの規約を作成し、厚生労働大臣の承認が必要です
- 労使合意が必要…労働組合または労働者の過半数を代表する者の同意が要ります
- 賃金規程を改定する…選択制の場合、給与の一部を手当に組み替える改定を行います
- 従業員に投資教育を行う…継続的な投資教育は事業主の努力義務です。運営管理機関が提供するプログラムを使うのが一般的です
- 費用がかかる…導入時の初期費用と、毎月の運営管理手数料が発生します。従業員数が少ないと1人あたりの負担が重くなることがあります
- 小規模向けにiDeCo+という制度もある…従業員300人以下の企業が、従業員のiDeCoに掛金を上乗せする「中小事業主掛金納付制度」です。企業型DCより手続きが簡便です
- 中退共との比較…中退共は掛金が全額損金で、退職金は機構から直接支払われます。運用リスクを従業員が負うかどうかが根本的な違いです
- やめるのが難しい…いったん導入すると、廃止には手続きと従業員の不利益変更の問題が生じます
- 当社の視点…3名の会社では、運営管理手数料の1人あたり負担が重くなりがちです。中退共やiDeCo+のほうが現実的な選択肢になることが多いと考えています。選択制の社会保険料削減効果は魅力的に見えますが、従業員の将来の年金を減らすという点を含めて判断すべきものです
企業型DCの税制優遇は確かに大きいのですが、選択制の「社会保険料が下がる」という部分だけが強調されがちです。下がるのは将来の年金給付も同じです。導入するなら、従業員にこの点を正確に説明し、選ばせることが前提になります。
よくある質問
Q掛金は経費になりますか
全額損金算入できます。従業員側でも給与課税されず、運用益も非課税、受取時も退職所得控除または公的年金等控除が使えます。
Q選択制とは何ですか
給与の一部を掛金の原資となる手当に組み替え、従業員が掛金として拠出するか給与として受け取るかを選ぶ方式です。掛金を選べば社会保険料の算定基礎から外れます。
Q選択制のデメリットはありますか
標準報酬月額が下がるため、将来の老齢厚生年金、傷病手当金、出産手当金などの給付が減ります。本人への説明が不可欠です。
Q小さな会社でも導入できますか
できますが、運営管理手数料の1人あたり負担が重くなることがあります。従業員300人以下なら、従業員のiDeCoに事業主が掛金を上乗せする中小事業主掛金納付制度という選択肢もあります。
まとめ
① 掛金は全額損金、従業員に給与課税なし、運用益非課税、受取時も控除あり。
② 選択制なら給与の一部を掛金に振り替え、社会保険料の算定基礎から外れる。
③ ただし将来の厚生年金・傷病手当金・出産手当金が減る。本人への説明が不可欠。
④ 導入には規約の承認・労使合意・賃金規程の改定・投資教育が必要。
⑤ 小規模なら中退共やiDeCo+(中小事業主掛金納付制度)のほうが現実的なことが多い。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。