ハラスメント防止措置。2022年4月から中小企業も義務です
パワーハラスメントの防止措置は、2022年4月から中小企業にも義務となっています(労働施策総合推進法30条の2)。従業員数の要件はありません。3名の会社でも100人の会社でも、講じるべき措置は同じです。
必要なのは4つです。①事業主の方針の明確化と周知・啓発 ②相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備(相談窓口の設置) ③事後の迅速かつ適切な対応 ④相談者・行為者等のプライバシー保護と、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止。罰則はありませんが、履行していないと勧告や公表の対象になり、何より問題が起きたときに「措置を講じていなかった」ことが会社の責任を重くします。
4つの措置の中身
- 方針の明確化と周知・啓発…パワハラを行ってはならないこと、行った者には厳正に対処することを就業規則や服務規律に明記し、全員に周知します。就業規則に懲戒の対象として書き込むのが最短です
- 相談窓口の設置と周知…相談担当者を決めて、誰にどう相談するかを従業員に知らせます。担当者を明確にしないまま「何でも言って」では体制整備になりません
- 事後の迅速かつ適切な対応…事実関係を確認し、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止措置を行います。手順を決めておかないと、実際に起きたときに動けません
- プライバシー保護と不利益取扱いの禁止…相談内容を必要な範囲でしか共有しないこと、相談したことで不利益に扱わないことを明記して周知します
- 罰則はないが勧告・公表がある…厚生労働大臣の助言・指導・勧告の対象で、勧告に従わない場合は企業名の公表もあり得ます
- 実質的な効果は民事の場面で出る…ハラスメントで損害賠償を争うとき、防止措置を講じていたかどうかが会社の安全配慮義務の履行として評価されます。措置を講じていないと会社の責任が重くなります
- 外部窓口の利用もできる…社労士や専門機関に相談窓口を委託する形も認められています。小さな会社で「社内に相談できる人がいない」場合の解決策です
パワハラの定義(3要素)
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ①優越的な関係を背景とした言動 | 上司から部下だけでなく、同僚間や部下から上司も含まれる |
| ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの | 業務上の必要な指示や注意・指導は該当しない |
| ③労働者の就業環境が害されるもの | 身体的・精神的に苦痛を与え、就業環境を不快にする |
- 3要素すべてを満たすもの…1つでも欠ければパワハラには当たりません。厳しい指導がすべてパワハラになるわけではないという線引きです
- 6つの類型が示されている…身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害。判断の目安として使えます
- 「業務上必要な指導」は含まれない…ここを明確にしておくことは、指導する側を守るためにも必要です。方針を周知するときにセットで伝えます
- 同僚間・部下から上司も対象…優越的な関係は役職だけで決まりません。専門知識や人数の優位も含まれます
小さな会社の現実的な対応
- 就業規則に1条追加する…禁止規定と懲戒の対象であることを明記します。10人未満で就業規則がない会社でも、方針を文書にして配るだけで①の措置は満たせます
- 相談窓口は「誰に言うか」を決めるだけ…代表者以外に相談先がないと、代表者が行為者の場合に機能しません。外部の社労士や法律事務所を第二の窓口にしておくのが小さな会社の解決策です
- 対応手順を1枚にまとめる…相談を受けたら、①記録する②事実確認する③措置を決める④再発防止を伝える。この4段階を紙にしておけば、起きたときに動けます
- 周知は朝礼と書面の両方で…「言った」だけでは周知の証拠が残りません。文書を配布して受領を確認する形にしておくと、履行の証明になります
- 当社の運用…就業規則に禁止規定と懲戒事由を明記し、相談窓口を代表者と顧問社労士の2系統にしています。3名の会社なので日常の距離が近く、むしろ外部窓口の存在が意味を持ちます
セクハラ・カスハラとの関係
- セクハラ防止措置は以前から義務…男女雇用機会均等法11条により、企業規模を問わず義務です。パワハラより前から義務化されています
- 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントも義務…いわゆるマタハラで、こちらも規模を問いません。育児介護休業法と均等法が根拠です
- 相談窓口は一元化できる…パワハラ・セクハラ・マタハラの相談を1つの窓口で受ける体制が望ましいとされています。小さな会社では実質的に1つになります
- カスタマーハラスメントへの対応も求められる方向…顧客等からの著しい迷惑行為について、事業主が相談に応じ適切に対応することが望ましいとされています。賃貸業では入居者対応の場面が該当し得るため、当社も無関係ではありません
この義務の実務的な意味は「起きる前に決めておく」ことです。相談が来てから窓口を作り、手順を考えるのでは間に合いません。就業規則の1条と、相談先を書いた紙1枚。それだけで4つの措置のうち2つは満たせます。
よくある質問
Q従業員が3人の会社でも義務ですか
義務です。労働施策総合推進法のパワハラ防止措置に企業規模の要件はありません。2022年4月から中小企業も対象になっています。
Q相談窓口は社内に置かなければいけませんか
外部に委託することも認められています。社労士や法律事務所、専門機関を窓口にする形です。小規模な会社では、代表者が行為者になる場合に備えて外部窓口を用意する意味が大きいです。
Q厳しい指導はパワハラになりますか
業務上必要かつ相当な範囲の指導はパワハラに当たりません。3要素のうち②を満たさないためです。ただし人格を否定する言動や、必要性を超えた執拗な叱責は該当し得ます。
Q措置を講じていないと罰則がありますか
罰則はありませんが、助言・指導・勧告の対象で、勧告に従わない場合は企業名の公表があり得ます。加えて、ハラスメントで損害賠償を争う場面で会社の責任が重くなります。
まとめ
① パワハラ防止措置は2022年4月から中小企業も義務。従業員数の要件はない。
② 必要な措置は①方針の明確化と周知 ②相談窓口 ③迅速適切な対応 ④プライバシー保護と不利益取扱いの禁止の4つ。
③ パワハラは3要素すべてを満たすもの。業務上必要な指導は含まれない。
④ 罰則はないが勧告・企業名公表があり、民事で会社の責任が重くなる。
⑤ 小さな会社は就業規則の1条+相談先を書いた紙1枚から始められる。外部窓口の委託も可。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。