定期借家と普通借家。更新の有無と賃料減額請求の扱いが違います
建物の賃貸借には普通借家と定期借家の2つがあります。違いを一言でいえば更新があるかないかです。
普通借家は、期間が満了しても正当事由がなければ賃貸人は更新を拒絶できません。定期借家は期間満了で確定的に終了し、正当事由も不要です。ただし成立には厳格な要件があります。契約書とは別に、更新がない旨を記載した書面を交付して説明すること。この手順を踏まなければ、契約書に「定期借家」と書いてあっても普通借家として扱われます。
2つの違い
| 項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 更新 | 正当事由がなければ拒絶できない | 更新なし・期間満了で終了 |
| 契約期間 | 1年未満は期間の定めがないものとみなす | 1年未満でも有効 |
| 契約の方式 | 口頭でも成立 | 書面(電磁的記録可)が必須 |
| 事前説明 | 不要 | 契約書とは別の書面で交付・説明 |
| 賃料増減額請求 | 特約で排除できない(減額請求) | 特約で排除できる |
| 中途解約 | 特約による | 居住用200㎡未満は一定の場合に可 |
- 定期借家は1年未満でも有効…普通借家では1年未満の定めは「期間の定めがない賃貸借」とみなされますが、定期借家にはこの規定が適用されません。3か月、6か月といった短期契約が可能です
- 再契約はできる…更新はできませんが、当事者が合意すれば新たな契約を結べます。これは更新ではなく新規契約なので、定期借家にするなら事前説明からやり直します
- 用途は問わない…居住用でも事業用でも定期借家にできます
- 取り壊し予定の建物には別の制度がある…法令や契約により一定の期間経過後に取り壊すことが明らかな建物については、取壊し予定の建物の賃貸借という類型があります
成立の要件
- 公正証書等の書面で契約する…書面によることが必要です。公正証書である必要はなく、通常の契約書で足ります。電磁的記録による方法も認められています
- 契約書とは別に事前説明書を交付する…「この契約は更新がなく、期間の満了により終了する」旨を記載した書面を、契約締結前に交付します
- その内容を説明する…書面を渡すだけでなく、口頭で説明する必要があります
- 賃借人の署名をもらう…事前説明を受けたことの確認として、説明書に署名・押印をもらうのが実務です
- 説明書を契約書に綴じ込むだけでは不十分…最高裁は、事前説明の書面は契約書とは別個独立の書面である必要があると判断しています。契約書の一部として一体になっている場合、要件を満たさないとされるおそれがあります
- 要件を欠くと普通借家になる…更新がない旨の定めが無効になり、正当事由がなければ明け渡してもらえない契約になります。オーナーにとって影響が大きい失敗です
- 説明の順序も重要…契約締結「前」の説明です。同時や事後では要件を満たしません
- 当社の実務…定期借家の事前説明書は、契約日とは別の日付で交付し、署名をもらった原本を保管しています。この1枚があるかどうかで、契約の性質が変わるためです
中途解約と終了通知
- 期間1年以上なら終了通知が必要…期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して期間満了により終了する旨を通知しなければ、終了を対抗できません(借地借家法38条6項)
- 通知が遅れても救済される…この期間を過ぎて通知した場合でも、通知の日から6か月を経過した後は終了を対抗できます
- 賃借人からの中途解約権…居住用の建物で床面積200㎡未満の場合、転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難になったときは、賃借人から解約の申入れができます(申入れから1か月経過で終了)
- この解約権は特約で排除できない…賃借人に不利な特約は無効です。事業用や200㎡以上の物件には適用されません
- 賃貸人からの中途解約はできない…定期借家でも、期間の途中で賃貸人が一方的に解約することはできません
賃料の増減額請求
- 普通借家では減額請求を排除できない…賃料が不相当になったとき、当事者は増減額を請求できます(借地借家法32条)。「賃料を減額しない」という特約は無効とされています(増額しない特約は有効)
- 定期借家では特約で排除できる…賃料の改定に関する特約がある場合、増減額請求の規定は適用されません(借地借家法38条9項)。賃料を固定する、あるいは自動改定する仕組みを有効に定められます
- 事業用物件でのメリットが大きい…長期の事業用賃貸借で、賃料の変動リスクを排除したい場合に定期借家が選ばれる理由です
- 特約は明確に書く…「本契約の賃料は改定しない」「毎年◯%増額する」など、改定の方法を具体的に定めます
- 賃借人にとっては不利にもなる…相場が下がっても減額請求ができません。契約時に長期の見通しを立てる必要があります
定期借家は、オーナー側にとって出口が明確になる制度です。一方で成立要件が厳格で、事前説明書の交付という一手間を怠ると普通借家になります。法人が事務所や店舗を借りる側の立場でも、定期借家かどうかで移転計画の前提が変わるため、契約書の表題ではなく事前説明書の有無で確認するのが確実です。
よくある質問
Q契約書に定期借家と書けば定期借家になりますか
なりません。契約書とは別個の書面で、更新がなく期間満了により終了する旨を記載したものを契約締結前に交付し、説明する必要があります。これを欠くと普通借家になります。
Q定期借家は再契約できますか
当事者が合意すれば新たな契約を結べます。ただしこれは更新ではなく新規契約なので、再度定期借家にするなら事前説明からやり直します。
Q定期借家でも途中で解約できますか
居住用で床面積200㎡未満の場合、転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情があれば賃借人から解約を申し入れられます。この権利は特約で排除できません。
Q定期借家なら賃料の減額請求を防げますか
賃料の改定に関する特約を定めていれば、借地借家法32条の増減額請求の規定は適用されません。普通借家では減額請求を排除する特約は無効です。
まとめ
① 定期借家は期間満了で確定的に終了。正当事由は不要。
② 成立要件は①書面での契約 ②契約書とは別の事前説明書の交付 ③口頭での説明。欠けると普通借家。
③ 期間1年以上なら満了の1年前〜6か月前に終了通知が必要。
④ 居住用200㎡未満はやむを得ない事情による賃借人からの中途解約が特約で排除できない。
⑤ 賃料の増減額請求を特約で排除できるのは定期借家だけ。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。