法人が代表者の自宅を事務所にする。契約と按分の根拠が要ります
個人事業主が自宅の家賃を家事按分して経費にする話と、法人が代表者の自宅を事務所にする話は別の整理になります。法人と代表者は別人格なので、まず契約が必要です。
持ち家であれば法人と代表者の間で賃貸借契約を結び、法人は地代家賃として損金、代表者は不動産所得として確定申告します。代表者が賃貸物件に住んでいる場合は、法人に貸すことが転貸に当たるため貸主(オーナー)の承諾が必要です。ここを飛ばすと契約違反になります。当社は貸主側・管理会社側の立場でこの承諾を判断することがあるので、その視点も含めて整理します。
持ち家の場合
- 法人と代表者で賃貸借契約を結ぶ…事務所として使用する部分について、法人が代表者から借りる形です。契約書を作り、賃料と対象範囲を明記します
- 賃料は近隣の相場を基準にする…高すぎれば役員給与と認定され、低すぎれば法人の利益が過大になります。近隣の同種物件の賃料水準を調べて根拠を残すのが実務です
- 法人は地代家賃として損金…毎月支払い、通帳に記録を残します。現金でのやりとりは避けます
- 代表者は不動産所得として申告…受け取った賃料は不動産所得です。固定資産税、火災保険料、減価償却費、住宅ローンの利息のうち事業用部分を必要経費にできます
- 住宅ローン控除に影響することがある…居住用部分の割合が下がると、住宅借入金等特別控除の適用に影響します。事業用部分が10%以下なら全体を居住用として扱えるという取扱いがあるため、按分割合を決める前に確認が必要です
- 賃料を取らない選択もある…法人が無償で使用する場合、法人には損金が発生せず代表者にも所得が発生しません。処理は最も単純ですが、法人の経費にはできません
- 固定資産税は代表者が払い続ける…所有者は代表者のままです。法人が代わりに払うと、その分が役員給与と認定される可能性があります
賃貸物件の場合は転貸になる
- 代表者が借りている物件を法人に貸すのは転貸…民法上、賃借人が賃借物を第三者に使用させるには賃貸人の承諾が必要です。法人は代表者とは別人格なので「第三者」に当たります
- 無断転貸は契約解除の理由になる…賃貸借契約には転貸禁止の条項が入っているのが通常です。承諾を得ずに法人が使用していると、契約違反として解除を求められる可能性があります
- 居住用契約のまま事業に使うのも問題…用途が「居住専用」となっている契約で事務所として使えば、用途違反です。法人登記だけなら黙認される場合もありますが、判断は貸主次第です
- 承諾を得る手順…管理会社または貸主に、法人の概要と使用形態(登記のみか、実際に業務を行うか、来客があるか)を伝えて相談します。当社が判断する場合も、来客の有無と看板の設置が主な確認点です
- 承諾が得られたら契約書に反映する…転貸の承諾書を取り付け、法人との賃貸借契約(または法人契約への切替え)を整えます。口頭の了解だけでは後の証明ができません
按分の根拠
| 基準 | 考え方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 床面積 | 事業専用スペースの面積 ÷ 総床面積 | 説明しやすく最も一般的 |
| 部屋数 | 事業に使う部屋数 ÷ 総部屋数 | 間取りが明確な場合 |
| 使用時間 | 事業に使う時間 ÷ 24時間など | 兼用スペースの場合 |
- 根拠を紙に残す…間取り図に事業用部分を書き込み、面積と割合を計算した書類を保管します。税務調査で最初に求められるのはこれです
- 専用スペースがあるほうが強い…リビングの一角というより、1室を業務専用にしているほうが説明が容易です
- 水道光熱費や通信費も同じ考え方…按分基準は費目ごとに合理的なものを選びます。電気はコンセント数や使用時間、通信費は業務利用の割合など
- 割合が高すぎると疑われる…自宅の8割が事業用というのは、実際にそうであっても説明が難しくなります。実態に即した割合を出すことが結局いちばん安全です
社宅として借り上げる方法
- 逆の発想=法人が借りて代表者に貸す…法人が賃貸契約の名義人となり、社宅として代表者に貸す方法です。法人は家賃全額を損金にでき、代表者から賃貸料相当額を徴収します
- 賃貸料相当額の計算がある…役員に貸す場合、建物の固定資産税の課税標準額などを使った算式で計算します。小規模住宅か否かで算式が変わるため、国税庁の定めに沿って計算します
- 徴収額が賃貸料相当額未満だと差額が給与…相当額より少ない家賃しか受け取っていない場合、その差額が役員給与として課税されます。「社宅なら家賃を払わなくていい」わけではありません
- 法人契約にできるかは貸主の判断…居住用物件を法人契約にすること自体は一般的です。ただし事務所としても使うなら、その旨を貸主に伝える必要があります
- 事務所と社宅は分けて考える…事務所として使う部分は法人の地代家賃、居住部分は社宅として賃貸料相当額を徴収する。1つの物件でも用途を分けて整理するのが正確な処理です
当社は宅地建物取引業者として、法人契約や転貸の承諾を判断する側にいます。実務で見ていると、承諾を取らずに法人登記だけしているケースが少なくありません。多くは黙認されていますが、来客や看板が絡むと問題になります。事務所として使う予定があるなら、物件を決める前に貸主の意向を確認するのが結局いちばん早いです。
よくある質問
Q賃貸物件を法人の事務所にするのに貸主の承諾は必要ですか
必要です。法人は代表者とは別人格なので、代表者が借りている物件を法人に使用させることは転貸に当たります。無断転貸は契約解除の理由になり得ます。
Q持ち家の一部を法人に貸すと確定申告が必要ですか
必要です。受け取った賃料は代表者の不動産所得になります。固定資産税、火災保険料、減価償却費、住宅ローンの利息のうち事業用部分を必要経費にできます。
Q住宅ローン控除は使えなくなりますか
事業用部分の割合によります。事業用部分が10%以下であれば全体を居住用として扱える取扱いがあります。按分割合を決める前に確認が必要です。
Q按分の割合は何割までなら大丈夫ですか
上限の基準はありません。実態に即した合理的な割合であることが要件です。床面積で計算し、間取り図と計算根拠を書面で残しておくことが最も確実な備えになります。
まとめ
① 法人と代表者は別人格。持ち家なら賃貸借契約を結び、法人は地代家賃・代表者は不動産所得。
② 賃貸物件を法人の事務所にするのは転貸に当たり、貸主の承諾が必要。無断転貸は解除理由になる。
③ 按分は床面積が最も説明しやすい。間取り図と計算根拠を書面で残す。
④ 持ち家は住宅ローン控除への影響を確認する(事業用10%以下なら全体を居住用として扱える取扱いがある)。
⑤ 社宅として借り上げる方法もあるが、賃貸料相当額を徴収しないと差額が役員給与になる。
この記事は2026年7月30日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。