前払金・前渡金・前払費用。3つの違いは「何に対する前払いか」です
前払いの処理で使う科目は3つあります。前払金(前渡金)は商品の仕入代金や外注費を前もって払ったもの。前払費用は継続的にサービスを受ける契約について、まだ提供を受けていない期間分を前払いしたもの。名前が似ていますが、性質が違います。
この区別が効いてくるのが短期前払費用の特例です。前払費用のうち支払った日から1年以内にサービスの提供を受けるものについては、継続して適用することを条件に、支払った事業年度の損金にできます。前払金には使えません。この違いを押さえておくと、決算前の判断が速くなります。
3つの科目の違い
| 科目 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 前払金(前渡金) | 商品・サービスの代金の前払い | 商品の手付金、外注費の着手金 |
| 前払費用 | 継続的なサービスの未経過分 | 家賃、保険料、リース料、保守料 |
| 立替金 | 本来は相手が負担すべき費用の立替 | 取引先の運送費を立て替えた |
- 前払金は「まだ受け取っていないモノ・仕事」…商品が届いた時点、仕事が完了した時点で費用または資産に振り替えます
- 前払費用は「時の経過で費用になるもの」…契約に基づいて継続的にサービスを受けるもので、時間の経過とともに費用化します
- 「前渡金」と「前払金」は実質同じ…どちらを使っても構いませんが、社内で統一します。一般に仕入代金の前払いを前渡金、それ以外を前払金とすることが多いです
- 長期前払費用という科目もある…前払費用のうち1年を超えて費用化されるものは、固定資産の区分に長期前払費用として計上します
短期前払費用の特例
- 前払費用であること…一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用であることが前提です。前払金には適用できません
- 支払った日から1年以内に提供を受けるものであること…期首から1年分ではなく、支払日から1年以内です
- 継続して同じ処理をすること…毎期継続して適用することが条件です。利益が出た年だけ使うことはできません
- 実際に支払っていること…未払いのまま損金にすることはできません
- 家賃の年払いが典型例…事務所の家賃を1年分前払いすれば、その全額を支払った期の損金にできます。翌期以降の分も含めてです
- 収益と対応するものは対象外…売上と直接対応する費用(仕入や外注費など)には適用できません。借入金を預金や有価証券で運用する場合の支払利息も対象外とされています
- やめるときは注意…継続適用が条件なので、翌期にやめると過去の処理まで否認されるリスクがあります。始める前に続けられるかを考えます
- 資金繰りへの影響…1年分をまとめて払うため、その分の資金が先に出ます。損金は作れても現金は減ります
決算での振替
- 期末に未経過分を洗い出す…保険料、家賃、保守契約、サブスクリプションなど、期をまたぐ支払いを確認します
- 前払費用として資産計上する…短期前払費用の特例を使わない場合、未経過分は資産に振り替えます
- 翌期首に戻す…翌期に費用へ振り替えます。この処理を忘れると、翌期の費用が計上されません
- 金額が小さいものは重要性の原則で処理することもある…毎期継続して同じ処理をしているなら、少額の前払費用を計上しない実務も一般的です
消費税の扱い
- 前払金の消費税は「引渡し時」…商品を受け取った時、サービスの提供を受けた時に課税仕入れとなります。前払いした時点では仕入税額控除できません
- 前払費用は原則として役務提供時…ただし短期前払費用として損金経理した場合は、その支出した課税期間の課税仕入れとする取扱いがあります
- 手付金・着手金も同じ…支払った時点では課税仕入れになりません。工事の完成引渡しや商品の納品時です
- インボイスの保存も引渡し時基準…前払いの領収書ではなく、引渡し時の適格請求書を保存します。前払金の領収書だけでは要件を満たさない場合があります
当社は事務所の家賃と保険料で前払費用が発生しますが、短期前払費用の特例は使っていません。1年分の資金が先に出ることと、継続適用の縛りがあるためです。使うなら「毎期続ける前提で、資金繰りに余裕がある年に始める」という判断になります。
よくある質問
Q外注費の着手金に短期前払費用の特例は使えますか
使えません。短期前払費用は継続的に役務の提供を受ける契約が対象で、外注費の着手金は前払金にあたります。
Q家賃を1年分前払いすれば全額その期の損金になりますか
短期前払費用の要件を満たせば可能です。支払日から1年以内に提供を受けるもので、毎期継続して同じ処理をすることが条件です。
Q短期前払費用の適用をやめてもよいですか
継続適用が条件のため、やめると過去の処理まで問題になる可能性があります。始める前に継続できるかを検討する必要があります。
Q前払いした時点で消費税の仕入税額控除はできますか
できません。商品の引渡しやサービスの提供を受けた時点で課税仕入れになります。短期前払費用として損金経理した場合は例外的に支出時とする取扱いがあります。
まとめ
① 前払金(前渡金)=モノ・仕事の代金の前払い、前払費用=継続的サービスの未経過分。
② 短期前払費用の特例は前払費用だけ。前払金には使えない。
③ 要件は①支払日から1年以内の役務提供 ②継続適用 ③実際の支払い。
④ 収益と直接対応する費用(仕入・外注費)には適用できない。
⑤ 消費税は引渡し時・役務提供時が原則。前払金の領収書だけではインボイスの要件を満たさないことがある。
この記事は2026年7月31日時点の法令・公開情報および当サイトで実測した料金に基づいています。制度・料金は変わることがあります。許認可・登記・税務の個別判断は、所管庁・専門家にご確認ください。本記事は論点の整理であり、法的助言ではありません。